少年は予測を超える存在となるか(藍染と一護)

「失礼します!緊急にご報告したいことが!!」

虚夜宮の主の部屋に慌ただしく、伝令が入ってくる。
主である藍染は、それを定時報告でも受けるように聞いていた。

「・・・どうしたのかな?そんなに慌てて。」
「十刃第6十刃、グリムジョー・ジャガージャック様が死神によって倒されたようでございます!」
「ああ、そのようだね。霊圧が弱くなっている。
で、<彼>は今どうしている?」

「はい!グリムジョー様は・・。」と報告を続けようとしたところを藍染が「そうじゃない。」と制した。
「訊いているのは死神の方だよ。死神・・黒崎一護は今どうしている?どうやらノイトラが接触しているようだが。」

まるで見ているように藍染が言う。
藍染は一体どの程度まで知って訊いているのだろう。この虚夜宮で起こることは全て知っているのではないかと、伝令役はふと思い、目の前の主が今までよりもさらに不気味に、そして恐ろしく見えてくる。

「ノイトラ様と交戦中です。ノイトラ様の方が圧倒的な優位かと。」
「そうか。報告御苦労だったね。下がって良いよ。」
「は、はい!失礼いたします!」

伝令が部屋を去った後は、いつもの静寂に藍染の居室は包まれた。
藍染は自らが座るひじ掛けに肘を置き、思索し始めるかのように視線を虚空へ放りあげた。
そしておもむろに口角がくっと上がるのが見えた。

『・・グリムジョーを倒したか。』
脳裏に浮かぶはオレンジ色の髪をした少年だ。
藍染はこの少年と剣を交えたことがある。相手にもならない存在だった。胴を二つに割るつもりだったのだが、意外にも失敗してしまったのを覚えている。もっとも背骨がどうにか繋がっている状態ではあったのだが。
そのおかげで今その少年は虚圏で奮戦出来ているわけだ。

あの時点での実力ならば、グリムジョーを倒すなど到底無理なレベルだった。
それが今、短期間で成長を遂げ、グリムジョーを超える強さを手に入れている。

・・黒崎一護。

彼は不思議な存在だ。
未熟でその実力も取るに足らないにもかかわらず、鮮烈な印象を相手に与える。

現に彼と戦ったことのあるグリムジョーもウルキオラも、彼をどうやら気に入っているようだ。獲物を他人に盗られぬよう、無意識のうちに囲い込もうとする姿には、思わず藍染も微笑が浮かぶ。

現に藍染もまた、部下が倒されたと聞かされて、浮かんだ感情らしきものは、残念ではなく嬉しさに似たものだ。
どうやら、あの少年の成長を楽しみにしている。あの少年が敵にも関わらずだ。

何故、そう思えるのか。ふとそう考えて、藍染は一つの答えを導いた。

意外性だ。

あの少年には意外性がある。

ほぼ計画通りに進めていた尸魂界においての計画を何度も微調整することになったのは、あの少年をはじめとする、旅禍の意外な活躍のためだった。
藍染もあの戦いに於いて少年が朽木白哉を倒すまでに成長するとは予測しては居なかった。
結局それは計画遂行に支障をきたすほどのことではなかったが。


全ての事象を予測の範囲にとどめて、いかなる事態になろうとも適切に対応する。
それは一種の藍染の能力だ。

では、何故意外性を持つ少年の成長を喜ばしいと思うのか。

『・・・結局、私も全てが<予想内の展開>ではつまらないと思っているというわけか。』

世界は藍染の手の中で踊る。
踊る様を見るのは、興味深いものがあるが、全てが手の中で納まってしまえば何時かは飽きてしまうだろう。
手の中を飛び出すものが有った方が、こちらも愉しめるというものだ。


・・藍染に赤子の手をひねるように倒されながら・・背骨がかろうじて繋がった、立ち上がることもできない状態で少年は藍染をにらみあげていた。
『ぜってえお前を倒してやる!』
若い気迫がそんな状態であるにもかかわらず、その眼からは伝わってきた。

折れない闘志。若く未熟・・しかしだからこそ持つ成長という名の強さ。
彼にはもっと興味深い存在になってもらいたいものだ。

今テスラと戦っているらしいが、流石に連戦となれば勝機は見えまい。
黒崎一護は敗北する。

しかし、何故か藍染はそれであの少年が死ぬとは思えなかった。確たる論拠も無く思うなど藍染には珍しいことだ。

「・・君の希望通り、またいつかお相手出来ればいいんだが・・残念ながらその程度では君の相手をするつもりはない。

・・そうだね、とりあえずはウルキオラと遊んでおいで。

・・ウルキオラと上手に遊べないようでは・・


残念だが、私の相手は出来ないよ?」


少年は予測を超える存在となるか。

予測しきって見せるという自負、そして同時に越えてほしいと思う淡い期待。


静寂に閉ざされた広い王の居室。


その中に、矛盾した二つの感情を感じる藍染がいた。





なんちゃって。

 

 

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