天帝と娘(雨竜と織姫)

「あ、おはよう石田君。」「おはよう、井上さん。」
学年主席と次席の雨竜と織姫。
登校時間が何故かよくかち合う。二人とも一人暮らしだからなのか、勉強が出来るタイプは生活リズムが似るのかは、定かではないが。

「昨日は夜ちょっとだけ晴れたね!あたし、ちょっとだけだけど、天の川見たよ?」
「七夕だったね、昨日は。天の川には気付かなかったな。そういえば、井上さんは同じ名前だから、やっぱり気になるのかな。」
「うん!毎年、一生懸命お願いするんだけど、なかなか晴れてくれないよね・・。」
「梅雨の季節まっただ中だしね。毎年カササギが大忙しってところだろうね。」

「でも、昨日はちゃんと会えたんだよね。・・よかったぁ。」
ポツリという織姫のつぶやきは心の底からのものだろう。

「・・井上さんはどう思う?」
「どう思うって?」「天帝の下した処罰さ。」
思わぬ事を聞かれたのか、当惑したような顔を見せる織姫。
「んと・・それは・・ちょっと厳しいなとは思うけど。・・・でももともとは彦星さんと織姫さんが悪いんだし・・。」
「それは否定しない。職務の怠慢は何らかの処罰の対象となって当然だ。

・・だけど、天帝が下した罰則の程度に於いては僕は議論の余地があると思う。」
「どうして?」

すると、説明する時の癖なのか、指でついとメガネのブリッジを上げる雨竜。

「罰を与える前には警告が必要だと僕は思う。
この現世には法というものがあって、違反をすれば、それに見合った刑罰がある。
一応国民には、どのような事をすればどのような罰となるのか、知ることが出来ることになっている。
まあ、実際は司法関係者でもない限り、六法全書なんて見ないだろうけどね。

それでは、彼等は職務怠慢が続けばどのような結果になるのか、知らされていたかというと、疑問だらけだ。
まあ、周りの人の忠告くらいはあったかもしれないが、天帝が警告を発していたかというと僕はそうは思えない。
何故なら、「このまま職務怠慢が続けば、二人を分かち会えなくさせる。」という忠告を受けてもなお、職務怠慢が続くとは思えないからだ。

天帝のなすべきことは、無論怠慢者に罰を与えることも重要だが、そうならないように警告を発することも重要だと思う。
ましてや、織姫は天帝の娘だ。
模範となるべき働かせるのも重要だが、娘の幸せを父として考えるのも、父であり天帝の役目だろう。

引き離すこと無く、今までと同じ仕事をどうさせるかをもっと配慮すべきだと僕は思う。」

雨竜の主張に、ちょっとびっくりしたような織姫。
しかし、その後はにこやかな笑みを浮かべている。
「・・石田君て・・優しいんだね。」「別に優しくなんて無いよ。もっとやり方があったというだけだ。」
「あたし最初、石田君は天帝さんとおんなじ考えだと思ってた。ちょっと意外。」

すると心外そうに、石田は珍しくイヤそうな顔をした。
「天帝のやりかたは”あいつ”に似てるんだ。
説明も何も無くて、いきなり命令というところがね。」

雨竜の脳裏に浮かぶのは自分によく似た、一人の男だ。肉親だとも思いたくもない冷たい心の持ち主。

「・・あいつ?」
「・・なんでもないよ。さ、行こうか。井上さん。」
「うん。今日あたし日直なんだ!」

七夕の話から思わぬ顔を思い浮かべることになった雨竜。
思わず、よった眉間の皺を隠すように、メガネのブリッジを持ち上げる雨竜がいた。




なんちゃって。

 

inserted by FC2 system