チェスゲーム(藍染・浦原)
空座町で、王鍵を作るべく現世に降り立った藍染は直ぐに異変に気がついた。
尸魂界に残った隊長全てがそこに居るのだ。
副隊長は何名か姿を見ないが、そんなことは極些細なことでしかない。
通常ならば、真っ先に尸魂界で貝の殻を閉じる如く護りを固めるべきとの考え方をするだろう総隊長の山本元柳斎重國。
その山本が尸魂界を出て空座町にて、藍染を待ち受けているのである。
そして、空座町には人間の気配を感じない。
一見すると人間だけが居なくなってしまったかのように見える。
だが、藍染は直ぐに理解した。
この街は、空座町では無い。精巧に作られてはいるが偽物だ。
では、本物の空座町はどこへ消えたのか。
『・・浦原か・・。』
藍染は浦原が尸魂界での研究の全てに目を通している。
その中でのある論文に思い至ったのだ。
それは、包囲したものを尸魂界にあるものを移し替えるというものだった。
包囲したものが例え現世なり虚圏にあろうとも、ほぼ同質のものを取り換えるという、驚嘆すべきものだった。
原理は穿界門を応用しているのだが、ゆくゆくは巨大な範囲のものであれ移し替えることが可能という途方もなく斬新な理論だ。
上層部には荒唐無稽と一蹴された論文だが、藍染は浦原の開発者としての能力を改めて評価するに至った論文の一つである。
浦原は、科学者としてはまさしく天才だった。
斬新で独創的な考え方。そしてその実現へのプロセス。
組み立てる理論はベースは現在ある理論なのだが、それを飛躍的、いや別次元へと昇華する。
とりわけ”門を作る理論”にかけては膨大な論文を書いていた。
黒腔の解析、さまざまな物体に損傷を与えること無く貫く技術。穿界門も現在安全に利用できるようになったのは、浦原が関係している。
藍染は、浦原がその技術を現実のものとし、実際に本物の空座町を尸魂界に移し替えた事を確信した。
『・・なるほど、素晴らしい技術力だ。』
尸魂界を追放されて100年が経過しているが、浦原の技術力は全く損なわれてはいない。
恐らくレプリカの方は科学技術局にでも作らせたのだろう。
・・・浦原ならもっと上手く作る筈だ。
称賛に値する仕事ぶりだと伝えようかと浦原の霊圧を探る。だが、気配は感じられない。
どうやら隊長たちが戦闘可能にするだけして、自分は高みの見物のようだ。
『だが本人が授賞式に参加しないとは、あまりいただけないね。』
山本を含む隊長たちは浦原の影のチェスの駒と言ったところか。
無論、山本には自分は追放された身だから、表だった戦闘は出来ないなどと、戯言を吐いたに違いない。
『・・・まあいい。折角君が作った特設ステージだ。
特別に、あがらせて貰おうかな。
いずれにせよ、君とはもう一度会うことになるだろう。』
それは確信。
『こちらの駒が少なすぎると失礼にあたるだろうから、少し揃えるとしよう。』
「スターク、バラガン、ハリベル。来るんだ。」
『・・・浦原、見ているんだろう?
さあ、始めようか。』
・・一方。
尸魂界に移転した浦原商店では、浦原が様子を見守っている。
「なんだよ、藍染の奴にあっさりニセモノだってバレてんじゃねえかよ。
科学技術局も大したことねえな。」
ジン太が遠慮も何も無い感想を述べている。
「とんでもない。よくやってくれましたよ?科学技術局の皆さんは。
それに、どんなレプリカを作ったところで、藍染には直ぐにバレちゃいますから。」
と喜助がのんびりした口調で言う。
とてもこれから決戦だとは思えない。
「じゃ、なんでワザワザそっくりに作らせたんだよ、店長。
どうせバレんならどうだっていいじゃねえか。」
すると喜助はこう答えた。
「一つは、一応、空座町と同質のものでないと移し替えることが出来ませんからねえ。」
「で?二つ目はなんだよ。」
「・・・その方が雰囲気出ますでしょ?
なんせ、これから決戦なんだから、会場は手をかけないと失礼ですからねえ。」
「じゃ、店長は出ねえのかよ。」
ちょっと残念そうにジン太が言う。
「それは・・。」と言いかけて、扇子を口元にあててニヤリとした喜助。
「ヒ・ミ・ツv」
戦いに欠かせないのは戦闘能力と頭脳だ。
もう一つの戦いが今始まろうとしていた。
なんちゃって。