力の恐怖(東仙と修兵)

「新しく配属になりました檜佐木修兵と言います。
東仙隊長、これからよろしくお願いします!」

『・・きちんと腰から折ったいい礼をする。
礼儀正しい青年だ。』
東仙は目が見えない。
だが、気配と霊圧を探る能力は他者よりもそれだけ優れている。気配だけで相手がどう行動をしているか、まさしく“目に見えるように“東仙は解った。
報告によれば、目の前の新入隊員は、顔に真央霊術院時代で負った傷跡があるのだという。
巨大虚に襲われた所を一回生を逃がすために自らが囮となって負った傷だ。

勝ち目が無い状態にもかかわらず、逃げずにそれでも一回生を逃がすために自分が囮になった行動、前評判も加わって、目の前の新入隊員は、東仙の所に来る事が決定した。
「彼は扱いやすい優秀な部下になるだろう。
要。君の所で育てると良い。」
東仙が崇拝する藍染からのお墨付きだ。

『成程。確かに見込みはありそうだ。』
東仙ほどにもなれば、一見して将来使える部下になるかどうかが解る。
その意味でも修兵は合格したようだった。

新入隊員がまず鍛錬されることは、己の斬魄刀を解放することだ。
斬魄刀は解放されることによって、隊員それぞれの特性に合った刀の能力が発現する。
当然、それにより加速度的に戦闘能力は上昇する。
斬魄刀を解放出来るかどうかは、実際の戦闘で使える隊員かどうかを判断される材料でもあった。

ある日東仙に、修兵についての報告がなされた。

斬魄刀の解放に成功したこと。
そして、相手は解放していなかったとはいえ、上官の斬魄刀を叩き折ったということ。
驚異的な事だ。なんでも二振りの鎌に修兵の斬魄刀は変形したのだという。
ここまでは、喜ばしいことだ。だが、その後に気になる報告が付け加わる。

それ以来、修兵は斬魄刀を解放しようとしないらしい。
かと言って、鍛練をサボるわけではない。真面目にやっているのだが、斬魄刀の解放することを嫌っているようだとあった。

「そうか。解ったよ。
私が少し話をしてみよう。」
「い、いえ!東仙隊長のお手を煩わせるようなお話では・・!」
「いや、私が話した方がいい。彼の考えている事は、恐らく私も思っている事だから。」
「東仙隊長が・・ですか・・?」
不審そうな顔の当時の副官の顔は目が見えなくとも東仙には解った。

翌日、九番隊の演習場に東仙が姿を現した。
隊員中に途端に高まる緊張感と高揚感。
隊長にいいところを見せたい。そしてあわよくば出世したい。
誰もが考えることだ。当然その日の演習にも力が入る。
しかし、その場においても修兵は斬魄刀を解放しなかった。東仙への絶好のアピールだと言うのにだ。
そのまま、自分の演習を終わらせようとした修兵を東仙が止めた。
「檜佐木そのまま残っていなさい。私が相手をしよう。」

演習で隊長自らが相手をしてくれることなど、殆どない。
どよめきが隊員の中に起こる。当然修兵も驚いたようだ。
「斬魄刀を解放してみなさい。報告は受けている。隠すことは無いよ。」

修兵は何やらためらっていた。しかし、隊長に言われてしないわけにはいかない。
「・・刈れ“風死”。」

風変りな二振りの鎖鎌が現れた。解放した修兵は得意げどころか、見せたくないものを見せたという様な複雑な表情をしていた。

無論東仙はそれを目で見ることはできない。
しかし、彼の視覚以外の残された感覚は正確に、“風死”がどのような形状を認識した。

「成程。それが君の斬魄刀か。」
「・・はい。」
「あまり気に入っていないようだね。」
「・・・。・・はい。」

隊員がまたどよめいた。自分の斬魄刀の解放した姿を誇りに思う事こそあれ、気に入らないなどありえないからだ。非難の声こそ上がりそうな所を東仙が片手を上げたことで制する。

「それは自分の力への恐怖だよ。
君はその斬魄刀がどれほど強力で間違った扱いをすればどうなるかを、解っている。
だからこそ、恐怖する。
斬魄刀は玩具ではなく、命を奪うものなのだ。それを使うということがどういう事なのか、君は本質的に解っている。」

すると、東仙は自らの斬魄刀の柄に手をかけた。
「鳴け”清虫”」
瞬間、修兵の周りから全ての音と光が消えうせた。
恐らく貧血にも似た感覚だ。

だが、一瞬でまた元の感覚に戻った。
「・・な・・んだ?今・・の・・?」

目の前の東仙隊長は、斬魄刀を抜き払ってはいない。
僅かに鞘から出して元に戻しただけだ。一体今のは何だったか。

「・・!!!風死が・・・!」
愕然とした。修兵の斬魄刀は一瞬のうちに見る影もなく刃がぼろぼろに打ち砕かれていたのである。

東仙は斬魄刀の柄から手を放さない。
一瞬でこんなことがあるのだろうか。いや、ありうるのだろうか。
そう思うと、東仙の構えが修兵にとってはとてつもなく不気味で恐ろしいものに見えてきた。

「・・・怖いか、私が。」
「・・はい。」
臆面する余裕すら無かった。
「・・・そうか、私も怖い。」
「・・?!」
「私が己の剣を怖いというのはおかしいか?
言っただろう。斬魄刀は人の命を奪う力を持っている。
そのことを忘れてはならない。
戦うという事は他者の命を奪うという事だ。

人の命を奪うということに、恐怖することを忘れた者は唯の獣でしかない。
我等は戦いに、いつ何時も恐怖を忘れてはならない。
だからこそ、平和を望み、その為にこの刀を最小限に使うことを模索する。

我々は死神だ。
獣に成り下がってはならない。

戦いを恐怖し、敵の力を恐怖し、そして何よりも己の剣に恐怖しなければならない。

それを知らぬ者に剣を握る資格など無い。

檜佐木。君が自分の斬魄刀に恐怖を覚える事は決して恥でも隠すべきことでもない。
君がその剣を握る資格があることの証なのだ。

その力を、平和の為に使いなさい。
その為の鍛錬は必要なことだ。だからこそ、我々は鍛錬する。

平和を願って鍛錬するのだ。

・・・君が斬魄刀を解放するのを嫌がっているのを見て、懐かしく思ったよ。


・・実は昔は私もそうだったから。」

東仙の戦いに関しての考え方は、恐らく隊長陣の中では特殊な部類に入るのかもしれない。
だが、まさに東仙の考え方は、修兵が決して表にはしなかった考えと合致していたのである。

『この人について行こう・・!』

漠然とした修兵の悩みに東仙の光が射す。
後は、先に進むだけであった。


なんちゃって。
 

 

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