途絶えし従属(テスラ)

・・・以前ノイトラ様は仰った。

「手ェ出すなよ?俺の戦いにはよ。

いいか?テスラ。憶えとけ。
俺に加勢しようなんてしやがったら、殺す。

てめえは俺の戦いを見てりゃいいんだよ。
それがてめえの仕事だ。いいな。」

「はい、ノイトラ様。」
許されるのはこの返事だけだ。
当然だろう。私はノイトラ様に望まれて従属官になった訳ではない。

通常、従属官は十刃が必要に応じて自分で選ぶものだ。
しかし私は・・

自ら志願し、ノイトラ様に乞うて従属官になったのだから。

そうだ。私はノイトラ様に従属したかった。
ノイトラ様の歩む道を、付き従って見ていたかった。

・・はじめは・・ノイトラ様の実力は私とそう変わらないものだった。
しかし、強さの変わらぬ私に対し、ノイトラ様は時を経るごとに強くなった。
強さへの強烈な妄執とも思える強烈過ぎるほどの感情。
それをノイトラ様は持っておられた。

ノイトラ様が十刃のNo.8だった頃。
まだ、私が従属官では無かった頃だ。

在る事件が起こった。
No.3だったネリエル様が忽然と行方不明になられたのだ。
その話を聞いた時、私の脳裏には一人の破面の顔が直ぐに思い浮かんだ。

そう・・ノイトラ様だ。
あれほどネリエル様と衝突していたノイトラ様・・しかし直ぐに私はその疑念を打ち払った。
何故ならノイトラ様とネリエル様の間には大きな力の差が存在していた。
ノイトラ様が不意を突いたとしても、ネリエル様を倒せるとは思えなかったのだ。

だが、ノイトラ様は実にあっさりと自分がやったと認められた。
理由を聞くと「気に喰わなかったから。」とおっしゃった。
「頭を派手にかち割っちゃいるが、死んじゃいねえよ。
また、戻ってくるだろ。」とも仰られた。

しかし・・・ネリエル様は戻って来られなかった。
月日は過ぎ、誰しもネリエル様が死んだと思った頃。
ノイトラ様は少し変わられたと思う。

強さを以前から求められていたが、そこに「最強」の文字を加えられるようになった。

ノイトラ様は「死にたいから、戦う」のだと言う。
そして、戦いの中で死にたいからこそ、強くなるのだと言う。

<最強の敵と戦い、死ぬためには、自らが最強でなければならない。>

ノイトラ様の理念は、矛盾に満ちたものなのかもしれない。
しかし、私には一種の美しさを感じたのだ。
それは、ノイトラ様の強烈な死の美学だと私は思う。
ノイトラ様にしか、達せられぬ境地の美。


・・私にとって死は恐怖でしかない。
その死をノイトラ様は美学とされておられるのだ。

・・この方の歩みを見ていたい。

そして私は・・ノイトラ様の従属官に志願した。
断られると思っていた。
実際、それまでにも従属官を持たないのかと聞いたことがあるからだ。
「要らねえよ、ンなもん。」いかにも嫌そうな態度が印象的だった。
私の方から志願した事を、ノイトラ様は驚かれたが、意外にあっさりと了承していただけた。
私は喜んだ。

だが、同時に頭のどこかで不思議に思っていたことがあった。
『何故、ノイトラ様は了承したのだろう。』
小さな疑問。解けることのない、けれどほんの小さなその疑問は、やがて私の中でも忘れられていった。

「手ェ出すなよ?俺の戦いにはよ。

いいか?テスラ。憶えとけ。
俺に加勢しようなんてしやがったら、殺す。」

・・・はい、と答えはしたものの・・・
これは私にとっては拷問でしかなかった。

目の前で主君が危ないやもしれないのに、見ているだけでいられる従属官が一体何処にいるだろうか。
しかも、自ら望んで従属官となった主君なのだ。
手を出すな、とは言われているが、反射的にその手が出てしまい、ノイトラ様のお怒りを買ってしまうこともある。

その度私は恐れていた。
従属官を・・その任を解かれることを。
ノイトラ様が戦いを邪魔をされることを最大級に嫌う事を知っているだけに。
今迄殴られるだけで済んだのは、幸運だと私は思っていた。


・・・・ノイトラ様・・・。


・・・・ノイトラ様・・・・。


この為だったのですか・・。

この為に私を従属官にしたのですか・・・。

『何故、ノイトラ様は従属官になることを了承したのだろう。』

・・・その答えが・・これだったのですか・・・。



ノイトラ様の夢を聞いたことがある。
・・・美しい夢だ。
ノイトラ様の死の美学の集大成とも言えるような。

「俺は斬られて

倒れる前に息絶える


そういう死に方をしてえんだ。」

独り言のようなその夢は、私しか知らないだろう。
それを私に話していただいたのだ。
心を許していただけたような気がして・・
・・私は嬉しかった。


・・・・嫌だ・・・。

誰か嘘だと言ってくれ。

・・・嫌だ・・・。

これが幻だと言ってくれ。

・・・嫌だ・・・嫌だ・・・。

・・・ノイトラ様・・・!!!


『俺は斬られて

倒れる前に息絶える


そういう死に方をしてえんだ。』


・・あなたは・・・

この私にこれを見届けさせるために・・・・


・・・私を従属官になさったのですか・・・・!!!!

あなたが死の美学を・・・

全うされた事を見届けさせるために・・・!!


・・・・嫌だ・・・。

あなたが強くなる様をもっと見ていたかった。

・・・・嫌だ・・・。

だから、殴られるのを承知で手を出した。

・・・・嫌だ・・・。

あなたは死にたいと仰っていたけれど

・・・・嫌だ・・・。

私はあなたに生きて欲しかった。

・・・・嫌だ・・・。

いつまでも付き従っていたかった。


・・・・嫌だ・・・。


・・嫌です。・・・こんなのは。






なんちゃって。

 

 

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