追憶の死神(狩能雅忘人)

・・・俺は元来口数の多い男ではない。

仲間にも無口だとよく言われていたものだ。
必要な事しか話さない、と。

・・・そうだな、俺はどちらかと言えば、自分が話すよりも仲間たちが話しているのを聞いている方が性に合っていた。俺と供に来た仲間達は、虚を追ってこんな所にまで来るような連中だ。血気盛んでよく喧嘩交じりで語り合っていたのを覚えている。

だが、今はただ沈黙が過ぎるのみ。
俺の目の前には仲間たちの墓がならんでいる。
俺の役目は二つある。
一つは、メノスの森にいる虚と戦う事。
そして、二つ目は仲間たちの墓を守る事だ。

俺たちがここへきてもう何百年も経っている。
尸魂界にいる死神も俺たちの事を憶えている者は殆どいないだろう。
墓に眠る仲間たちは、誰にも追憶されること無く忘れ去られることになる。

・・そう、俺を除いては。

安心しろ。俺はお前達の事を覚えている。
尸魂界や現世に出現する虚の数をなんとか減らそうとした仲間の事を忘れることなど、この俺だけは決してない。

一人となって幾程の時が流れたのか・・。
孤独に慣れたこの俺でも、時折無情に誰かの声を聞きたくなる。
だが、俺に語りかける者などありはしない。

並ぶ墓を見つめ、そんな時は追憶する。
俺はもっと仲間達を助けるすべがあったのではないか、と。
あの時、判断を変えていればこの墓に眠る仲間たちは未だ俺と一緒に戦い続けることが出来たのではないか、と。

俺を責める者はいない。
だから俺が自分を責めねばならないのだ。

だが、生きながらえるものだな。
まさかここでまた死神に会う日が来ようとは。
朽木ルキア。
仲間とともに、仲間を救うべくこんな所まで来たのだという。
真面目な奴だった。
朽木の教本通りの太刀筋に、俺の太刀筋がかなり我流となってしまっているのを改めて知った。・・そうだ。俺も昔はそう習った。

一度尸魂界に戻るよう、俺に勧めた朽木だが、今の尸魂界の様子を俺が尋ねると、言葉を濁していた。
率直に物をいうこいつが、言い淀むとは・・尸魂界ではどうやら、余程の事が起きているらしい。尸魂界も変わったという事か。

・・無理もない。もう何百年も経っているのだからな。

だが、仲間を思い仲間と供に戦う朽木の姿はあのころの俺達と変わらない。

・・・懐かしさを覚えた。
朽木と供に戦う事は、一人で戦う事に慣れきった俺に仲間と戦える喜びを思い起こさせた。

尸魂界に・・一度戻ってみてもいいのかもしれんな。
無論、この墓をそのままにするつもりはない。直ぐにまたここへ戻ってくるつもりだった。

しかし、その機会を失った。
いや、俺自身が選ばなかった。直前でだ。

朽木達を先に行かせる。
その為に、メノスの森を俺が出られなくなったとしてもだ。
あいつ等は仲間の為に戦っていた。
俺が行かせることで、仲間の一人のような気になれた。

行け、朽木。
そして、仲間を助け出せ。

そして、虚圏を去る時で良い。
アシドという名の死神が此処にいた事を思い出してくれ。

俺の仲間は俺の追憶の中にある。

俺の存在は・・朽木。お前の追憶の中にあらんことを。


・・一人くらいは、俺の存在を覚えていてくれる奴が居てもいいだろう。


さらばだ、朽木。




なんちゃって。


 

 

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