うわっ、オッサン臭さっ!(ギンと藍染)

五番隊に配属された市丸ギン。

子供で天才、しかも超生意気と三拍子揃った手のかかりそうなギンの面倒をみようという殊勝な者は当然いなかった。
平子は流石に自分で面倒を見るわけにはいかない。

・・・当然ながら、ギンの面倒を見る係りは藍染の方に回ってきた。

ギン単体なら、「苛めたろかこのガキ!」と闘志を燃やす隊員達も、その横に藍染がいるとなると、流石に闘志の炎は即消火活動が脳内で行われるようだ。
ギンにも当然当たりはぐっと柔らかくなる。

そんなギンはというと、藍染へ感謝の気持ちはあまりない。

・・その辺が超生意気と言われる所以なのかもしれないが。

ギンの藍染への印象は、『まだ若いんやろうに、なんやえらいオッサン臭い人やなあ。』といったものだった。
<趣味は読書で、特技は書道。好きな食べ物は豆腐。>

確かに、これを見る限りでは、オッサンどころか、ジジイといわれてもおかしくはない。
だが、フツーは心で思っても口に出すことは絶対にない。
いくら温厚で人格者とは言え、藍染にそんなことを言おうとはだれも思わないだろう。

だが、ギンは違う。
彼は子供の頃から自分の心に正直だった。

「・・なァ、前から思っとったんやけど・。」
「なんだい?ギン。」
「藍染副隊長って若年寄みたいやなァ。」

早速、発言核弾頭を投下した。

すると、藍染怒るどころか、少し考えてこう答えた。
「若年寄か・・確かに言えなくもないかな。」

『怒らんのかい、このオッサン。』

「確かに副隊長の地位を江戸時代でいうと若年寄だからね。」

<若年寄>
江戸幕府の役職名。
老中の次職。主に旗本を統率する重職。
老中が隊長で、若年寄はその下の副隊長というわけですな。勿論、大老が山じい。そのまんまです。

「イヤ・・そうやのうて、言葉の響きで若年寄なんやけど・・。」
「僕くらいの年齢の男は、職務に於いては実年齢より上に見られた方がいいからね。
残念ながら、褒め言葉として受け取っておくよ。」


確かに多忙な隊長の代わりに組織のソフトの部分で仕切っているのは副隊長だ。
いかにも若造からよりも、ある程度年がいった者から指示を受けた方が、指示される方としても受け入れやすいだろう。

「そやけど、そないオッサン臭うせんでも・・。なんや平子隊長の方がノリから言ったら、若そうやで?」
「平子隊長がああだから、僕は少し落ち着いた方がいいんだよ、ギン。
隊長と副隊長が、漫才コンビじゃ面白いかもしれないが、護廷隊としてはなりたたたなくなるからね。」

ギンはいつか藍染が隊長になると確信している。
すると、藍染が隊長になれば幾ばくか言動も若くなるのだろうか。

『どないなるんやろ。』

ちょっと楽しみだ。服装とかも変わるのだろうか。天才ギンでも想像がつかなかった。

そして、その日がやってきた。
ギンは副隊長として藍染隊長の下に付くことになる。

「藍染隊長、式典の用意出来はりました?」
隊首室の外から声をかける。
「ギンか。準備は整っているよ。入ってくると良い。」
「ほな、失礼します。」

扉を開けると、<五>の文字が染め抜かれた羽織を着た藍染の背中が見える。

「じゃ、行こうか。」

こちらへ振り返る藍染。
変わっていない。いや、どこか更にオッサン臭くなっている気がするのは気のせいだろうか。
羽織以外は変わっていないように見えるが・・。

・・・ギンは見つけてしまった。

・・藍染の黒ぶち眼鏡のフレームが以前よりもさらに太くなっている事に。

「うわっ、オッサン臭さっ!!」
『隊長になったら若こなるんちゃうんかい!』

どうやら、一度オッサン臭くなると後戻りはできないらしい。
自分は、何時までも青年で居よう。



ギンがそう決意した瞬間である。





なんちゃって。
 

 

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