焼肉焼く日(檜佐木修兵)

いい年こいた男の誕生日。
彼女の一つもない、ちょっと寂しい男はというと、不思議と同じ境遇の同志を引き寄せる。

・・そして・・・

その年の8月14日の誕生日を迎えた檜佐木修兵はと言うと・・・

「いいか、お前ら!今日は喰うぜ!!」
「おう!」「・・て、何で僕まで呼ばれるのか、未だによく分からないんですけど・・。」

・・・焼肉店に居た。

外見は決して悪くないのに不思議と彼女が出来ない檜佐木修兵。九番隊副隊長。

そして、そんな寂しい男に召集をかけられた、栄えある同志は阿散井恋次と吉良イヅルの両名である。無論彼らにも彼女と呼べる女の影はない。(笑)

毎日毎日、いい男たちにもかかわらず、仕事に追われる日々。
イベントの日にはふと気づくと、野郎の仲間しか集まらない現実。←まあ、そんなもんだ。そんなもん。
そのチョイとしたむなしさを吹き飛ばすには・・・。

・・・焼肉しかないだろう。←そんなもん?

焼肉はシンプルで奥が深い。
運ばれてきた一枚一枚の肉を己の手で焼き、そして食う。
しかし、肉の部位によっては、旨い焼き加減は微妙に異なり、己のベストを探すとなると、一枚一枚の肉の焼きに一枚入魂の気合が必要となる代物である。←おおげさ

「いいか、お前ら。
タンの焼き方は表10秒裏5秒だ。」

男前に言い切る修兵。
しかし、その論理には確固たる根拠はない。
「へえ!そうなんスか?」
素直に信じる恋次。どうも彼は、たいして問題にはならない事に対しては、何でも素直に信じてしまうところがあるようである。

「・・・て、先輩ソレ10秒以上経ってますよ?20秒くらいは経ってます。」
律儀に数えているイヅル。指摘をしても決してひっくり返さないのが、後ろ向きとか言われる一因なのかもしれない。

焼肉はある意味時間との勝負の食い物だ。
雰囲気を重視する女を連れて行くようなところではない。
喰い負けないように、自分の肉を確保しなかればならないところは、一種焼き網上の野生の王国なのかもしれない。

捕食者に回りがちなイヅルに、トラとライオンの対決の様相の修兵と恋次。

腹が満たされてようやく人心地をつく。

「・・あ、そういや今日って先輩の誕生日でしたっけ。なんで焼肉なんだろうって思ってたんですけど。」
「あ、そういや、そうだっけか?」
「いやあ〜!今日はご馳走になって悪いな。」
「何だよ、そういうことかよ。ちっ、どうりで珍しく檜佐木さんから焼肉の誘いがあったわけだぜ。」
「・・最初から僕たちに奢らせるつもりだったんだ・・。」
「まあまあ、そう言うなよ。お前らのときはちゃんとお祝いしてやったろ?」
「って、俺ん時はモツ鍋だったでしょうが。ったく。」


それでも、呼ばれた事自体を非難することはないわけで。

「・・で?今年はどんな年にしたいんスか?」
恋次の問いに、「あ〜〜〜。」と虚空を見上げて考える修兵。

最初鋭い顔つきで何やら考えているようだった。
しかし、フッと表情を和らげて恋次の方に顔を戻す。

「とりあえずは、そうだな。乱菊さんとメル友になる事かな。ていうか、メルアド教えてもらう事!」

「・・メル友・・・そうなんだ・・。」
「・・・メル友・・っスか。」
「なんだよ。その反応は!」

「・・いや・・。」
二人とも歯切れの悪い返答だ。

・・・彼らは言えない。

既に乱菊のほうから一方的にメルアドを押し付けられ、彼らのメルアドもまた強制的に教えるハメになり、今現在もどうみても気まぐれとしか思えないメールが送られてくるということを。


『メアド・・教えてもらえないんだ・・。』


修兵のこの一年が、非常に気の毒な事になりそうなことを予感する、恋次とイヅルであった。

「・・・先輩、とりあえず、お誕生日おめでとっス。」
「・・・お誕生日おめでとうございます。」

それでも祝いの言葉を述べる彼らは、いい後輩である。




なんちゃって。


 

 

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