玉虫色(藍染と四十六室)

・・瀞霊廷は混乱していた。

不気味な影を落としていた魂魄消失事件は、8名もの隊長格が魂魄の研究被実験対象となり、その上その実験を行っていたとされる十二番隊隊長の浦原喜助、及び協力者と思われる大鬼道長、握菱鉄裁は、四十六室の法廷中に何者かの手引きにより逃亡。

ただちに、護廷隊に捜索命令が出るも、浦原と握菱の姿は瀞霊廷の何処にも見当たらなかった。
それどころか、被害者である8名の隊長格すら科学技術局から忽然と姿を消していたのである。

そして、なぜか二番隊隊長、四楓院夜一もまた行方が解らなくなっていた。

四十六室の長老たちは、侵入者の背恰好から浦原を逃がしたのは夜一であるとほぼ断定していた。
行方の分からぬ夜一の名が、捜索対象に加えたのち、なぜか四十六室は沈黙する。

護廷隊には捜索命令が引き続き出されたまま、行方の分からぬ者たちを探す隊士が右往左往する姿が流魂街の果てまでも見受けられた。
だが、一向に成果は得られなかった。

そんな状態が、ずるずると3日も続いていた。

そして、表向きは隊長を失い沈む五番隊隊首室。
そこに藍染惣右介がいた。

「なァ、藍染副隊長。」声をかけたのは、少し背が伸びてきたギン。
「何かな?」
「いつまで捜索命令出たままでおる気なん?四十六室のおじいちゃんたちは。
もう現世に逃げてもうてるくらい、ボクにでも解るんやけど。」
「どうやら、現世でも探させているようだよ?どうせ見つからないだろうけどね。」
「そやったら、ええ加減諦めてもええんちゃうん?どうせ、浦原隊長も、現世に行ったところで大したことできへんのやろうし。」

捜索するフリをするのもいい加減飽きてきたのだろう。だいぶ不満げだった。
「四十六室としては、自分の目の前で容疑者が逃亡してしまってるからね。
このままではメンツが立たないと言ったところだろうね。
だからご老人達は、今僕たちが浦原喜助たちを捕まえる事を、祈るように待っている筈だよ。」
「そやけど見つからんのやろ?」
「おそらく霊圧を遮断する義骸でも作ったのだろう。浦原喜助ならありうる事だ。」
「このまま、見つからへん宝探しさせられるんや、イヤやなァ。」

ため息交じりなその姿は、この騒動の原因を作った悪の面影が不思議と無い。
それこそが、この子の怖いところだ。と思いつつ藍染が筆を執った。
何やら、手紙を書いているようだ。

「何書いてますのん?」
「ご老人達に、少し助言をして差し上げようと思ってね。僕もいつまでも下らない捜索に隊士を派遣させるわけにもいかないからね。」

そして、流れるように手紙を数枚書いたのち、ギンに「これを四十六室の投書箱に入れておいてくれないか。」と手渡す。
裏を見れば藍染の署名が無い。
「匿名希望てヤツですか?コレ。」
「そうじゃない。こういうのは“誰の意見”というのが解らない方が、受け入れられやすいものなんだよ。あのご老人たちにとってはね。」
「ふうん。よう解らん人たちやなァ。」

そして・・・翌夕に、護廷隊に下された第一級命令だった捜索命令が解除となる。

同時に四十六室の見解が下された。

『五番隊隊長平子真子以下、8名の隊長格は、魂魄消失事件の探索中”戦死”。
十二番隊隊長、浦原喜助は”禁止されていた”霊圧遮断型の義骸作成の罪により、現世に追放。
大鬼道長、握菱鉄栽は浦原喜助の研究をほう助した罪にて同じく現世追放。
二番隊隊長、四楓院夜一は逃亡のほう助の罪にて、地位剥奪。

なお、魂魄消失事件については、今後動きがあり次第、追って命を下すものとする。』

それを聞いた誰もが唖然とした。
魂魄実験の事が一切無かったことにされているのだ。
「こりゃあまた・・・驚いたねえ。笑うしかないよ。」思わず京楽春水はこう呟いた。

時を同じく、見解の説明を聞くべく山本元柳斎重國は四十六室を訪れていた。

「詳しい説明をお聞かせいただけますかな?」
多くの隊長を失う結果となったのだ。山本としても納得は出来ない。
「浦原喜助の魂魄実験の件はなんとされるおつもりか。」

それについて、四十六室の一人がこう答えた。
「魂魄実験と言うが、浦原喜助がその実験を行ったという証拠は、今現在何処にもない。」
「なんですと?!」
「最大の証拠だった被実験対象の平子達は今やどこにも無い。
技術開発局には、ある程度の痕跡は伺えるが最大の証拠がなくなった以上、浦原喜助を魂魄実験の首謀者として断罪するわけにはいかぬ。」

「これほどの事件を・・・無かったことにされるおつもりか・・。」
「浦原喜助は現世に逃れたのは間違いない。四楓院家が持つ穿界門を使ったことは確認済みじゃ。
現世でも霊圧を発見できぬという事は、奴は霊圧を遮断する義骸を作成していた証。
死神を把握できぬようにする義骸を作るなど、言語道断。
現世に追放処分されてもおかしくはあるまい。ほう助した握菱も然りだ。」

「このような大罪を犯した者を放置されるおつもりか?」
もっともな意見だ。だが、別の四十六室の者が話しかけた。
「よく考えてみよ。山本。
浦原喜助が魂魄実験をしようにも、現世に居るのは人間じゃ。隊長格をもって初めてなんとかできたものを人間の魂魄風情で実験が続けられるわけはあるまい。」
「ま、人間ならば多少の犠牲になってもいたしかたあるまい。それに、実験をやってくれた方が逆にヤツの居所が分かりやすくなるというもの。こちらに被害はないしのう。」
「まあ、出来そこないの平子達をどうかするつもりかも知れんが、動きがあれば現世において対応すればよい事じゃ。少なくとも瀞霊廷にはこれ以上の類は及ぶまい。」

「しかし!!」と山本が反論しようとしたところ、衝立に<一>の文字がある者がこう言った。
「山本よ。おぬしは、8名もの隊長格を実験の材料とされ、見るも無残な虚もどきになったという結末にさせたいのか。
せめて戦死ということにすれば、奴らの誇りも幾分は守られようほどに。
おまけに、同じ護廷隊から大罪人を出すなど、おぬしの責になることも避けられぬのじゃぞ?

どうじゃ?我々の今度の見解は、お主らの事も考えた最良のものじゃと思うておるのじゃがのう。」

「・・・・・・・。」山本は沈黙する。隊のことを考えたやったなど、ただのいいわけだ。
要は自分たち四十六室の失態を最小限にしたいだけなのだから。
「・・承知した。」
山本は不肖ながらも了承する。もうここまでくれば、四十六室は変わらない。一度外に出した四十六室のの言はどんなことがあっても覆らないからだ。

・・そして、五番隊舎では・・。

「藍染副隊長の助言よう効いたみたいですやん。」
「そうみたいだね。無駄な時間が節約できて何よりだよ。」
「ポイントはどこですか?」
「ご老人たちと護廷隊の両方のメンツが立つようにすることかな。
両方のメンツが立つならば、多少の事など直ぐに無かったことにするだろうからね。彼らなら。」
「そやけど、藍染副隊長の名前出した方がこの後やりやすいんとちゃいますの?」
「いいや、逆だよ。
僕みたいな若輩者の意見を取り上げたとなっては、まさしくご老人達のメンツが立たないだろう?どんな優れた意見でも、彼らは自分の意見が一番と思っているからね。
だから、一度出した決定は覆らない。
四十六室に間違いがあるはずがないと、彼らが思っているからだ。
だから、名前を出した方が、却ってやりにくいんだよ。」

「しかしまァ。ようぬけぬけとこないな決定出せますなァ。
ボクやったら恥ずかしゅうてようせんわ。」
「そうかい?彼ら好みの結論だと思うがね。」
「アカンわ。ボク、おじいちゃんたちとは仲良う出来へんわ。」

するつもりもないだろうに、ギンが言う。
そんな様子を見て藍染が言った。

「・・ギン。こう言う結末をなんというか知っているかい?」
「なんですのん?」
「玉虫色の決着というのだよ。

誰にとっても耳触りのよい美しい決着の事だ。
だが実際は問題は何も解決していないというのがポイントかな。」


するとギンがすかさず憎まれ口をたたく。

「うわあ、なんや副隊長の鏡花水月みたいやな。」

思わぬ斬り返しに、藍染の唇が薄く笑った。





なんちゃって。

 

 

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