アニメ207話のいじり(砕蜂)

・・・あの頃の私は必死だった。

必死で己を磨き、必死で夜一様に仕えていた。
より、夜一様の近くに居られるように。
いいや、一番近くに居られるようになることが目標だった。

夜一様は私の憧れの全てだった。
夜一様の右腕と呼ばれる自分を、いつも夢見ていた。
そのためには、強くなければならなかった。
だが、それだけではない。
品行も、人格も、教養も全てが優れていなければ夜一様にはふさわしくない。
そう思い、自らを律し、日々修行に励んでいた。

だから、浦原喜助という男は大嫌いだった。
古い付き合いらしいことは知っていたが、夜一様の事を「夜一さん」などと気軽に呼び、その態度にも敬意は全く感じない。
夜一様がご寛容なのをいいことに、何だあの態度は・・!

自室に訳のわからぬものを持ち込み、異臭を放つ実験をし、何をしているのかは解らんが呼びかけにも気付かぬほど眠りこけるとは・・!
しかも、出てきたときの奴と言ったら、いかにも何日も風呂に入っておらぬ風体だ。

あんな奴が夜一様の信頼を得ていることなど、私には悪夢だった。
どうせ、まともに任務をこなしているとも思えぬ。
そこで私は浦原喜助の一日の動きを監視し、それがふさわしいものではないと判断された時には、夜一様に告発することにしたのだ。

・・内容はまさしく怠惰の極みだった。
一日中フラフラと流魂街をさまよい、住人どもとコマ遊びなどをし、昼から酒を飲み何やら隊士と話し合いおって。
奴が何故夜一様から、檻理隊の隊長という大役を任されているのが信じられなかった。
愚鈍で軽率、そして怠惰。
偵察で、少しは私の奴への認識が変わるかと思ったが、今までの奴の評価が確実なものであると確信に至るだけだった。

・・だが、どうやら私は奴の一部分しか見ていなかったようだ。

隊首試験を控える重要な時に、奴が出向いた先は流魂街の外れ。
ある屋敷の前には、奴が酒を飲んでいた隊士どもが待機していた。

・・これは・・いったい・・。

「脱走者ですよ。」奴はそういった。
脱走者だと・・?!今までそんな話は聞いたことがないぞ?
どうみても相手は複数。それもかなりの数だ。
これだけの数の隊士が脱走となると大ごとになるはずだが・・。
いや、違う。大事にならぬようにしているのだ。この男が。

表に知られぬよう、秘密裏に事を収束させようとしていたわけか・!
それゆえ、流魂街に潜入し情報を集めていたというわけか・・。
確かにこれだけの人数が脱走したとなると、各隊に及ぼす影響は多い。
露呈すれば、ヘタをすれば脱走者の隊長にまで類が及びかねない。

だから、自分の隊首試験があってもこちらへ来たというわけか。

・・この男・・・。

まだ、私はこいつを認めた訳ではない。
認めた訳ではないが・・・・。

・・見た目通りの男ではないようだ・・。


夜一様が、この男を隊長に推薦したその理由が・・。

少しだけ解ったような気がした。
・・くそっ・・私だとて・・・!

悔しい。だがまだ私には遠い。
夜一様の右腕となるには・・・。
何もかもが遠い。

己の未熟を思い知った時だった。




 

 

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