アンタ絶対タラシやろ(ひよ里、リサ、藍染)

その日は隊長は隊首会での会合があり、副隊長たちは控室で待たされていた時の事だ。
まだ集まってきたのは数名。
そして控室には珍しい組み合わせが居た。

五番隊副隊長・藍染惣右介、八番隊副隊長・矢胴丸リサ、十二番隊副隊長・猿柿ひよ里の三名である。
ひよ里は直ぐ後からやってきた、五番隊長の平子に遠慮無い足蹴をくれて、仲良くひと悶着を起こした直後であった。

藍染は、ひよ里が自らの上司である平子に足蹴をくれようが何をしようが、止めようとした事が一度もない。リサもまた「まあ、いつものことやし。」というような態度である。
部外者のリサはともかく、ひよ里からすると藍染が自分に平子に手を出すのをやめるように言ってこない事が前から気に入らなかったらしい。
だったら、最初からやるなと言われそうだが、それはそれ、これはこれだ。
副隊長の仕事は隊長を守る事も含まれている。
真面目そうな藍染が、ひよ里の態度を咎めないほうが不思議だった。

「おい、アンタ。」
ひよ里が藍染に声をかけた。
「・・もしかして、僕のことかな?猿柿副隊長。」
「アンタ、あたしになんか言うことないんかい。」
「・・?何をかな?」
「五番隊副隊長として、ウチに言うことないんかいて、訊いてんのや!!」
「五番隊副隊長として?
・・・さて、特に思い当たらないんだが。」

「ああ〜〜もう!!!
アンタ、自分とこの隊長が他所の副隊長に蹴られて、ホンマになんも言うことないんかい!!」
「ああ、そのことか。特にないよ。平子隊長もいつも楽しそうだしね。」
「あのハゲのことはどうでもええねん。ウチはアンタの副隊長としての心構えを言うてるんや!」
イライラするひよ里。すると珍しくリサも話に入ってきた。
「・・まあ、流石にウチもうちんとこの隊長が他所の副隊長に蹴り入れられたら、一応文句の一つは言うわな。あんな呑んだくれでも一応はウチの隊長やし。」

口を挟むという事は、どうやらリサも藍染のことを不審に思っていたようだ。
するとにっこり笑って藍染が言った。

「平子隊長は避けようと思えばいくらでも避けられますよ。矢胴丸副隊長。
でもあえて、猿柿副隊長の蹴りをまともに受けるのは、それだけ猿柿副隊長のことを気に入ってらっしゃるんだと思います。
実際楽しそうですしね。

・・そんな楽しいコミュニケーションの間に、水を注すのは却って副隊長としては控えるべきだと僕は思ってるんだ。・・これで答えにならないかな?猿柿副隊長。」
しかし、ひよ里は別のところに喰いついた。
「なんやとー?!ウチの蹴りがあのハゲに避けられるやと?!
あないなハゲにウチの蹴りが避けられるワケないやんけ!」

「まあ、確かに見とって楽しそうやし、あんたの言うとおりかもしれんわ。
そや。うちもアンタに前から言いたいことあったんやけど。」
「何ですか?矢胴丸副隊長?」
「ソレや。その名字で呼ぶん止めてえや。
リサでええ。みんなうちのこと、リサって呼んでるやろ?アンタもそう呼びィ。」
「あ、ウチもそれ前から思ってたんや!
猿柿副隊長や、なんや気持わるうて鳥肌たってまうわ。ひよ里て呼び!」

すると、藍染は少々困った顔をした。
「それは・・出来ないかな。」
「なんでや。」
「僕にはちょっとしたポリシーみたいなものがあってね。」
「なんの?」

すると、藍染の様子が少し変わったように見えた。
そして、いつもよりも低い声。

「・・・・僕は女性に対しては、”特別な女性”にしか名前では呼ばないことにしてるんだ。
だから、君たちのことを名前で呼ぶ事は出来ない。

僕が君たちの名前を呼ぶときは・・・君たちが僕にとって特別な存在となった時だよ。」

「・・!」
『なんやねん!!このメガネ!!こんなにエエ声しとったっけ?!』
思わずちょっと頬が熱い。チラリと横を見れば、驚いた顔のリサがいた。

「・・アンタ・・ホンマは絶対タラシやろ。」
呪詛のようにひよ里の口から感想が飛び出した。
すると心外そうな表情を藍染がする。
「それは誤解だよ。」
「いーーや!絶対アンタその手で女くどいとるやろ!!言うてみぃ!」
「ひよ里の言う通りや。むっちゃ怪しいわ。」
「矢胴丸副隊長まで止めてくださいよ。」
「とっとと白状しィ!!」

・・・後から控室に入ってきた別の副隊長によると・・・

「ひよ里とリサが藍染を二人がかりでイチャモンつけていじめてた。」
・・そのように見えたらしい。


そして藍染はその後、すこしまた距離を置くようになったという。



なんちゃって。


 

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