僕の後悔(石田雨竜)

僕はあまり後悔というものをしたことが無い。

起こりうる大抵のリスクは予測したうえで決断しているからだ。

だけど・・この選択は・・・

やはりすべきではなかった・・。


僕は黒崎に井上さんを守るようにと言われた。
そんな事は言われるまでもない。そのつもりだった。
僕らの目的は井上さんの救出だからね。
その本来の目的を忘れるほど、僕は愚かじゃない。

あの第4十刃の相手は黒崎だ。
いろいろと因縁がありそうな二人だ。
僕が手を出すことは考えられなかった。
二人は天蓋の上に移動し、そこからは思いもつかないような衝撃が下にまで流れてくる。
とりわけ、大きな衝撃があった時、僕と井上さんは天蓋の上を凝視した。

「何だ・・・?!
上で何が起きた・・・?!」
いったい何が起こってるんだ?黒崎は無事なのか?

黒崎の様子を見に行きたかった。だが、安全のことを考えるならば此処に居た方がもちろんいい。
離れていてもこれだけの衝撃が来る戦いに、近付けば巻き込まれる可能性も多い。
だが、見たかった。それは井上さんも同じことだろう。
ここで待つべきだ。黒崎を信じて。

だが、僕の決意は揺れていた。
そこへ井上さんが訊ねてきたんだ。
「・・石田くん。
・・・石田くんの力で、あたしをこの天蓋の上まで運ぶことって・・できる?」

井上さんは聡明だ。
僕にもし「天蓋の上まで連れて行って。」と訊いてきたなら、僕は恐らく断っただろう。
天蓋まで連れて行けるかと訊かれれば、僕は出来るとしか答えられないからね。
だが、出来たとしても僕は連れていくべきじゃない。
そう井上さんに伝えようとする僕の口はなかなか開かなかった。

「・・お願い。」
懇願するように、でも静かに言う井上さんは黒崎のことを本当に心配している声だった。
心配?そんなことなら僕だって心配してる。だけど行くべきじゃないんだ。
たとえどんなに行きたいと思ったとしても。黒崎の手助けにもきっとならないのだから。

・・デモ・・・

『黒崎ナラ、何トカスルンジャナイノカ?今マデダッテ、無茶苦茶ダッタノヲ承知デナントカシテキタ男ダ。
今回ダッテ、ナントカシテクルンジャナイノカ?
感ジテイルンダロウ?黒崎ガ、何カトテツモナイ能力ヲ持ッテイルトイウコトヲ。』

十分に距離を取って、井上さんを守るくらいならなんとかなるかもしれない・・。
流石に黒崎も無事でウルキオラに勝つとは思えない。相当な苦戦と負傷もするだろう。
終わった段階で、井上さんに治してもらったほうが・・。

・・・理由は今から言うならなんとでもなった。
僕も黒崎の戦いを見たかった。それだけだ。

そして黒崎は・・・敗れた・・。
胸に虚閃で大きな穴を開けられて。

井上さんが、絶叫しながら走り寄るのが見えた。
時間を稼がなければ。
井上さんが黒崎を治療するまで。
なんとかして時間を稼がなきゃならなかった。

たとえ、ウルキオラの言った通り井上さんでも治せないとしても、わずかな可能性にかけなければならなかった。
弓を撃つのを見て、奴は簡単に僕の矢を番える左手首をもっていった。
全く・・嫌味なくらいの冷静で遠慮のない攻撃さ。
だけど、僕はだからと言って止めるわけにはいかない。

時間を・・少しでも時間を。井上さんの絶叫が聞こえる。
・・・くそ・・っ。
このままじゃ黒崎との約束も守れそうにない。
やはり、来るべきじゃなかったか・・。僕は後悔しかけていた。

急に静かになった。
異様な霊圧を感じて眼をやれば、見たこともないものがそこに立っていた。
胸に開いた虚の穴。
だが、黒崎のぼろぼろの死覇装を纏うソレは・・「・・・黒・・・崎・・・・?」なのか・・?
虚化なんてもんじゃない。
虚化は死神が虚の能力を手にいれた現象だ。その証明は仮面だが、これはそんなもんじゃない。
まるきりの・・虚だ。
だが、黒崎の剣を持っている。
死神の剣を持った完全な虚なんて聞いたこともないぞ?

虚となった黒崎は・・ありえないほどの能力だった。
ありえない強さ、そしてスピード。

・・そして、黒崎ならありえないほど容赦が無かった。
あんな戦い方をする黒崎なんて考えられないほどに。

2段階解放したウルキオラさえ手がでなかった。
簡単に足下にしたウルキオラに、何の躊躇いもなく至近距離から虚閃を放った黒崎。

こんな戦い方をするヤツじゃない。
こんな残酷な戦い方をする奴じゃ絶対ない。

上半身だけとなったウルキオラに尚も剣を上げる黒崎を、僕はそれ以上見たくなかった。
「・・・もういい。・・黒崎。もう決着はついた。
そいつは敵だが、死体まで斬り刻む必要はない・・・。
もういいんだ、黒崎・・・。」

そう、黒崎なら絶対にしない。そんなことは。
だが、黒崎の腕の力は緩まない。

「聞こえないのか、黒崎・・!
止めろと言ってるんだ・・!
それをしたら本当に・・・お前は人間じゃなくなる・・・!」

本当に心まで虚になってしまったのか?!
戻ってこい!!黒崎!!
「黒崎!!!!」

次の瞬間・・僕は心の底から天蓋の上に来たことを後悔した。

黒崎は確かに剣から手を放したよ。
そして投げたんだ。僕へ向かってね。
僕は何処かで信じていた。
本気で黒崎が僕に剣を向けるなんてありえないと。

だが現実に僕の腹を黒崎の剣は貫いていた。

・・うそ・・だろ・・?
痛みよりも驚き。
呆然と剣を何とかしなきゃと思っていたところに、黒崎が虚閃を放とうとするのが解った。

・・もう・・僕の知る黒崎は居ないのか・・?

・・お前はそれでいいのか?

・・僕は後悔した。

虚圏に来る時。危険は承知の上だった。命が危ないことも。

だけど・・まさか仲間にやられるなんて・・。

それだけは絶対にないと思っていたから。
そしてまさかそんな光景を井上さんに見せることになるなんて・。



・・僕は激しく後悔した。




なんちゃって。
 

 

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