白哉玉(朽木白哉)

新年が明けた。

兄様の誇り(笑)、ルキアたんは今年の正月は薄汚れた人間風情(相変わらずひどいな、兄様)である黒崎一護宅で過ごしている。
理由は空座町の緊急に備えて、だ。

朽木家の年始は忙しい。
年賀のあいさつだの、新春の宴席だの催しが目白押しだからだ。
当然、朽木家の当主である兄様は、明晰な頭脳の中、および執事のじいの手帳の中ともに、びっちりと予定が書き込まれていた。

本来ならば、当主の兄様の妹であるルキアたんも、兄様同様に忙しいはずなのだ。
兄様には今、嫁さんがいない。上流貴族の怨念逆巻く女の付き合いには、嫁がいなければ妹、つまり本来はルキアたんが出なければならないはずだった。
年始の着飾りまくった女性たちにまみれ、着物だの宝飾品だの『あら、●●家の方ったら私より位が低いのに、私よりも高級な着物だわ!キー!!くやしい!!』だの、『●●家の奥様、あんな上品になさってるけど、あたくし知っておりますのよ?フフフ裏では・・。』だの、そりゃもう恐ろしい世界で、どうやって他の女の荒さがしをしようかという身も毛もよだつような女の戦いのど真ん中に放り込まれているはずなのだ。
まさしくハイエナの群れに、絶好のエサとなるだろう。
「ひーっひっひっ、いじり倒したる(←それはオイラ)・・じゃない苛め倒したる!」となるんだろうなあ。(笑)


だが、現にルキアたんは、のうのうと現世の人間宅にて居候である。

何故か。

兄様が、己の誇りであるルキアたんをそんな恐ろしげな中に、放り込めるだろうか。いやありえない。(笑)


そもそも兄様は貴族の会合なる場に、ルキアたんを出したことがない。
死神の付き合いは別だが、朽木家としての付き合いの場には出したことがないのだ。
出したが最後、ルキアたんは貴族社会の駒だ。
政略結婚の相手として、こんなおいしい駒は無い。
大貴族とはいえ、ルキア自身は流魂街出身。少々格下でも手が出ようものだ。貴族の出ではないので、そこはひっかかるが、朽木と繋がれるのであればそんなものはどうでもいい。
何といっても当主の妹。兄様に”もし”何かあれば、次の当主はルキアの夫がなる可能性が高い。しかも兄様は危険極まりない護廷十三隊の隊長。”いつ何時何があってもおかしくはない。”

会うたら最後、何としてでも我が家が!!!
貴族たちの気合いは毎年十分すぎるのだが、肝心のルキアたんは何時までたっても、貴族社会にお披露目はされないのだった。

ま、それはともかく。(笑)
兄様は薄汚い人間宅で正月を過ごしているルキアたんを慮っていた。
薄汚い人間風情の家で居候というのも引っかかるが、何でもルキアたんは黒崎一護の部屋の押し入れで寝泊まりしているらしい。
ルキアたんからその話を聞くまで、兄様は押し入れなどで人が寝泊まりできるのだとは知らなかった。
『押し入れとは、物を仕舞う場であったと思っていたが・・・。現世では違う使われ方としているようだな。』
イヤ、兄様。現世も押し入れは物仕舞うところだから。まあ・・ふつうは・・だけど(笑)

聞けば、黒崎一護は死神代行ながら、護廷十三隊から給金が支払われてなどいないのだという。
黒崎一護がどんなに貧乏だろうが、兄様の知ったことではないが、そのせいでルキアたんが不自由な思いをするとすれば話は別だ。
『あれが衣食住に困らぬよう、私がとりはかってやらねばな。』

おりしも、今は正月。
そして黒崎一護は十六歳の小僧(笑)だ。
黒崎一護に何かやるとすれば、今が最大の好機である。

「・・じい。」
「はい。なんでございましょう。」
「至急用意してもらいたいものがある。」
「はい。なんなりと。」

兄様が動いた。

そして、場は現世に。

「黒崎一護。兄に年玉をやる。」
いきなり、あらわれた兄様と執事のじい、驚く一護をよそに早速用件を切り出した。
高齢のじいが現世まで同行するのは稀だが、渡すものが渡すものだ。
相手がどのような者であるか、知っておく必要があった。

『・・成程。これがルキア様がお世話になっておられる方か。』
失礼のないようジロジロ見ることなど一切しないが、しっかりと人物および居住の様子をチェックすることは、朽木家の執事ならば当然のことである。
『ま、これならば大丈夫でございましょう。』
主に、年玉が載った盆を差し出す。すると兄様、いかにも施ししてやっているという上から目線・・イヤ、厳かに一護へお年玉を手渡した。

一護は渡された感触に不審に思った。
やけに重いし固い。
『何だコレ?木の板か?』
「お年玉?」コレなんだよ」、とばかりに開けてみれば、予想通り木の札なるものが手の中に落ちてきた。何やら文字が書かれている。

すると、見ていたルキアが仰天した。
「!兄様これは・・・・!
これは『桜紋朽木總通証』!!!!
朽木家の運営する全ての店舗で全ての商品が無料になる幻の手形!!!

よかったな、一護!!これで一生働かずとも食っていけるぞ!!」

ルキアは感嘆した。
なんという素晴らしいものを、兄様は一護にお与えなさるのだろう!!
なんという気前よさ!!
さすがは兄様だ!!

思わず、ルキアが兄様を見た。
眼がきらきら輝き、その眼は感動と尊敬に満ちている。
言葉に出さなくとも「兄様はやはり凄い!!!」と言っていた。

『・・当然だ。私を誰だと思っている。そこらの輩とは格が違う。』←やっぱ格の問題なのか兄様。

やはり、無理に予定を調整して現世に赴いた甲斐があった。
ルキアがこのような尊敬のまなざしを自分に向けることこそが、兄様にとっての年玉である。

『・・・今年は良き年になりそうだな。』
『兄様が、このように一護に優しくしてくださるなど・・!今年は良い年になりそうだ!!』

朽木白哉。及び朽木ルキア。
今年は上々の滑り出しのようだ。



『・・こんなもんいつ使えっつうんだよ。俺、尸魂界に入れねえし。』
『・・ほ・・これならば、あちこちで手形を見せられて、朽木の店に被害を与えることもありますまい。何せ後始末は執事である私の役割ですものでな。』

今年もあまり変化がないことを確信した二名は除いて。




なんちゃって。

 

 

inserted by FC2 system