腹心(藍染とギン)

・・・何時からだったかな。

自分の腹心となるべき者を求め始めたのは。


・・ああ、そうだった。

天に立つ道筋が、見えて来た頃だったかな。

随分前から僕は腹心たりうる人材を探していた。
だが、なかなか思う様な人材が居なくてね。
一つの結論に達したんだよ。

・・育てるしかないと、ね。

だが、その素質のある者もなかなか見つからなかった。
それなりに死神としての素質がある者は居た。だが、それだけじゃ駄目でね。
真正の悪でなくてはならないんだ。
魂の底から、悪でなければ僕の腹心とはなりえない。唯の手足になる存在など掃いて棄てるほどいる。そんなものに意味は無い。僕の頭脳の一部となりえる存在でなくてはね。

そして、ギンを見つけた。
まだ子供だったが、そんな事は些細なことだ。要は素質があるかどうかだからね。
それで一つの試験をした。

僕がギンに課した試験は、三席を殺せるかどうかだ。
死神としての能力と、倫理的能力をそれで試した。

・・よかったよ、予想以上にね。
何のためらいも無く、うちの三席を惨殺してくれた。少し物足りなかったようだが・・それは我慢してもらおうか。

三席の血を頭から浴びても、嫌悪感は全くないようだ。
ただちょっと汚れただけと言った感じかな。
だが、流石にそのままというのはまずいからね。
懐から手拭いを出し、ギンの頭の血を拭いてあげようとしたんだが・・。
ギンの霊圧が一気に殺気を帯びてきた。

「・・触られるのが嫌いなようだね。」
「イヤや。ええ思い出や無いし。」
「成程。それで殺し慣れているというわけか。今迄何人殺してきたのかな?」
「そんなん今更憶えてないわ。」

霊圧に殺気はあるものの、逃げるそぶりは無い。
大人しく頭を拭われている。
「少し我慢しなさい。流石にこのままでは目立つからね。」
「褒めてくれへんの?」
「何を。」
「何時、手拭いごと頭潰されるか解らへんのに、大人しゅうしとるんやで?ちょっと褒めてくれてもエエやろ?」

・・いいね、一応はこちらの実力を推し量れているというわけか。
確かにその気になれば出来なくもない。
「成程。それは悪かったね。
・・だが、僕の方も褒めてくれないのかな?」
「何に?」
「君の刀がいつ引き抜かれてもおかしくないのを、これでも見て見ぬふりをしている事だよ。親指をそろそろ鍔から外してくれると嬉しいんだが。」
ギンの親指は何時でも刀を抜けるように、刀の鍔に触れたままだ。口元は笑っていても相当な警戒心だ。学院に入る前、どういう生活を送っていたのかは容易に想像できる。

「どうせ刀抜く前に頭潰せますやろ?」
「否定はしないよ。さて・・こんな所かな。」

あらかた髪と顔についた血を取ってやる。と言っても血のにおいまでは拭えないが。

「副隊長さんはボクをどないするつもり?」
唐突にギンが訊いてきた。

「何、大したことじゃない。僕の副官として育てていこうと思っているだけだよ。」
「こないにいたいけな子供を悪の道に引きずり込むん?」
面白そうにギンが言う。
「心外だね。いたいけな悪い子は他の道に行きたいのかな?

安心するといい。僕が育ててあげよう。・・・・うんと悪い子にね。」

ニヤリと笑ったギンが、鍔から指を放すのが見えた。


・・そして・・・

「藍染隊長どないです?ボクの隊長姿。」

時は流れ、小さかったギンは今や<三>の文字が染め抜かれた羽織をはおるまでになった。

「良く似合うよ。」
今や視線の位置が変わらぬまでに成長した。ほんの子供だった頃が嘘のようだ。
「今、昔の事思い出してましたやろ?」
そしてギンは僕の僅かな表情を動きを読むことができるまでに成長した。
・・時に小憎らしくなるほどに。

「育ったものだと思ってね。」
「背がですか?」
「・・それもあるが・・

随分と悪い子に育ったものだと感心していたんだよ。」

「そら、育てたお人がワルですからなァ。責任とってもらわへんと。」


「・・・安心しなさい。


それくらいの度量は持ち合わせている。」


人材は育てるものだ。

その労を払わぬ者に、真の人材など集まりはしない。


ましてや腹心など、得ることなど出来はしない。


そうだろう?ギン。




 

 

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