茨道(藍染惣右介)
・・・人間の世界では男と女が生まれる確率はほぼ同率。
だが、僅かばかりだが、男のほうが多いそうだね。
だが、虚の世界ではどうやらもっと極端でね。私の調べた範囲では、大虚となり自我を持つ個体の性の差は、圧倒的に男のほうが多いようだ。
実際、私の破面化を受けた子たちは、男が多い。8:2くらいじゃないかな?
恐らく性による戦いへの本能の違いが、男女の虚の分離に影響を及ぼしていると考えるが、女でありながらも卓越した殺傷能力と自我を持つものが現れる。
・・・それが歴代の十刃の女性たちだ。
言っておくが、私は完全に十刃については能力だけで選んでいる。
女性だからといって加点はするつもりはないよ。そんなことをしても無駄だからね。
彼らは虚だ。
自分より弱い者が自分より上に来れば、必ずその者を倒して上に立つ。
私は、彼らに仲間同士の戦闘をまったく禁止しているわけじゃない。
『正当な理由』があれば、仲間同士殺しあってくれて構わない。
その苛烈な状況の中でも、No.3にまで上がってきた女の子が二体居る。
1体目はネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンク。
なかなか可愛い子でね。
下位の十刃の面倒を見るいい子だった。そうだね、学級委員タイプと言っておこうか。
優等生とはどうあるべきかを、自分なりに考えて、実践する子だったかな。
残念ながら、同じ価値観を相手に求めてしまって、煙たがられることもあったようだがね。
そう。彼らは虚だ。
優等生であることを求められても反発するものは多いだろう。
彼女はその加減を知らなかったようだ。
そして、罠にかかってその地位を失うこととなった。
・・私が、あの日何があったか知らないとでも思ったのかな?
知っていたよ。子供じみたノイトラの妄執と十刃落ちしたザエルアポロの打算がどう結実したのかもね。
この虚夜宮で残念ながら私に隠し事はできない。
何食わぬ顔で、ネルトゥの失踪の報告を聞くノイトラは実に見ものだった。
・・・どうした、納得いかなさそうな顔をしているね。
解っているよ。何故、ノイトラたちを罰しないのかを聞きたいんだろう?
ネルトゥがああなったのは、彼女のミスだ。
ノイトラを理解するのなら、どのあたりが引き際なのかも理解するべきだった。
だが、彼女はその引き際を見誤った。
そして彼女が死んでいないことも知っている。
彼女が力を取り戻し、十刃に戻りたいというのなら、私は今の時点での彼女にふさわしい数字を与えるだろう。
今のNo.3のハリベルはもう少し大人だ。
第一おしゃべりじゃないところがいいね。
余計な波風を立てなくていい。
冷静な判断と、強固な理性を持つ彼女は同姓の破面からも高い尊敬を得ているようだ。
そして、自分を慕ってくれるものたちに、ハリベルは義理堅い。
その辺も、加点材料といえるだろう。
彼女は慎重だ。
自分がどういう立場にあるのかをよく理解している。
その上でNo.3として居続ける事はやさしいことじゃないよ。
女性の破面は少ない。
その存在だけで目立つものだ。
その中で力を持ち十刃に立つという事は、多大な栄誉とともに危険をも抱えることになる。
男の破面にとっては格好のターゲットだ。
女であることを利用することは容易い。
だが、その時点で終わりだ。
転落する第一歩はそこにあるといっていい。
今までの女性型の破面の中では、私は一番君を評価しているよ。ハリベル。
君は美しい。
騎士とも武士とも言えるそのストイックなまでの誇りも。
女性であることを隠さない大胆さもね。
周りがすべて敵だと思いなさい。
一瞬たりとも気は抜いてはいけないよ?
君たちが歩む道は茨の道だ。
少しの油断で、容赦なく棘は君たちを襲うだろう。
・・だがごらん。
その道を進むからこそ、君たちは美しき華となる。
十刃は私の10本の刃だ。
君たちが美しき刃であり続けんことを。
・・・幸運を祈ってるよ。
・・・茨の道の奥からね。
なんちゃって。