意地悪(藍染惣右介)

・・・ギンに時々言われるんだがね・・。

私はどうやらかなりの”意地悪”らしい。

意地悪か・・。
ギンに言われるとは私も相当なものだ。
私に言わせると、彼のほうが余程意地悪だと思うのだがね。


だが、一つ言える事は、意地悪というものは興味を持った対象にしかしないものだ。
困らせたいと思えるくらいの興味を持たなければ・・・・意地悪など誰もしないだろう?

なんでも私は今、井上織姫に意地悪をしているそうだ。

私としては意地悪をしているつもりはないんだがね。
そうだね・・ちょっとした悪戯に近いかな?

最初は単純に彼女の特異な能力に興味を持った。
少し変わったところはあるようだが、性格は基本的に真面目でとてもいい子だ。
そしてどうやら隠しているようだが、恋をしていた。
相手はあの黒崎一護という旅禍の少年といったところかな。
恋は女の子を綺麗にするものだ。
彼女もその例外じゃない。

少し見ないうちに随分と彼女は魅力的になっていた。
僅かな戦闘力にもかかわらず、必死になってあの少年の力になろうとしている姿は実にいじらしいじゃないか。
そんなにあの少年と一緒に戦いたいのかな?

一生懸命にがんばる君の姿は悪くない。
だが・・・私としては思い悩む君の表情の方が見たいかな。

・・・いい機会だ。
虚夜宮へ招待しよう。
無論それなりの待遇で。
だが、無理やりというのは趣味じゃなくてね。
・・・君の意思で来てもらおうか。

君は君の意思で、愛しい少年に別れを告げて此処に来たまえ。
その苦悩に満ちた顔はきっとどんな表情よりも美しいよ。
あの少年のことを忘れる必要などない。いや、忘れては駄目だよ?君の魅力が半減してしまうからね。

君はあくまであの少年への想いを持ったまま、私の側に来るといい。

君の悲壮な表情が見たいものだ。
ウルキオラに連れられて来た顔も悪くない・・・が、まだそんなものじゃないだろう?
もっと私に見せてくれないか・・君の本当の悲壮を。

いっそその精神はそのままに、君の肉体だけを別のものにしてしまおうか。
恋するあの少年の前にはとても出て行けないようなものに。
純粋で純潔だった自分がが、とても他人にはいえない様なふしだらなものにされても・・君はあの少年に会いたいと思うかな?

・・いや、それはやめておこう。

そんなことなど、やろうと思えばいつでも出来る。
一度堕ちた肉体は元の純潔には戻せない。
ならば、今しばらくはその君の潔白を愛でるとしよう。

君を追って予想通りあの少年が来た。
君は「なぜ来た?」と思いつつも、喜びを感じていたはずだ。愛しい少年とまた会える仄かな期待をこめて。

そんなに彼に会いたいかな?では会わせてあげよう。
せっかくあの少年も頑張っていることだしね。


だから、その代わりに見せてくれないか。
再び引き離された時の君の悲壮を。

「おかえり、織姫。」
・・・いいね。悪くない。
君のそんな驚愕や失望、落胆した顔はいいものだ。

「どうした、ずいぶんと辛そうな顔をしているね。」
ご褒美に私がもう少しいい顔になる言葉をかけてあげよう。

「・・・笑いなさい。
太陽が陰ると皆が悲しむだろう。」

おや?この状況で笑えるわけがないという顔をしているね。
だが、この状況はまだ笑える状況のはずだ。
この先に待っている状況に比べれば・・ね。

「君は笑って少しの間ここで待っているだけでいい。
ただ我々が空座町を滅して来るまで。」

そう・・笑っていてくれないか。
上手に笑えたら、褒めてあげよう。
とびきり優しく。小鳥をなでるように撫でてあげよう。

・・その方が、君の絶望した表情が際立って私も愉しめるからね。


織姫、これは意地悪じゃあないよ?
何故なら君はまだ正気を保っているだろう?
これはちょっとした悪戯だ。


私の本気の意地悪は・・こんなものじゃない。


・・憶えておくといい。

 

 

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