可愛い者達(白哉、喜助、竜弦、雨竜、藍染)

尺魂界における朽木ルキア救出のための戦いは壮絶を極めた。
結果的にルキア救出という目的は何とか達せられたものの、滅却師である雨竜はその力を失う結果となった。

『・・さすがにこの状態じゃあ、戦えませんねえ。』
雨竜は気づかれないように態度をは変えてないが、霊圧は残念ながら嘘はつけない。
霊圧を無くしてしまった雨竜。確かにもう戦えない状態だ。

『まァあれだけの戦いだ。命があっただけでもモノダネなんスけどね?』
元々は喜助自らがルキアに魂魄を隠したことが原因だ。それにしてはあまりに冷酷な考え方だ。
雨竜の能力はもう戻らない。喜助にも手の及ばない領域だ。
そして喜助は自分が冷酷な性分であることを理解している。

『もう能力は戻らないでしょうねえ。

・・・そう。普通のやり方では、の話っスけどね?』

喜助は確信していた。”あの男”が動くことを。
誇り高い滅却師。
いわんや自らの息子がそのような状態にいることなど、”あの男”の誇りが許すまい。
どんな事をしても取り戻させるはずだ。

『さぞかしお怒りでしょうねえ。またあの人の死神嫌いに拍車がかかりそうっス。』
だが、喜助は雨竜に何も伝える気はない。
雨竜本人にとっては大問題のはずだ。仲間といえる存在を初めて手に入れられた矢先に、自らの能力がなくなってしまったのだから。

『ま、後は”おとうさま”にお任せしましょう。
・・よろしくお願いしますよ?竜弦サン?』

そして雨竜は自らの状態を冷静に分析していた。
自分はもう霊圧を失った。
だが、戦いは終わったわけではない。ルキア救出という当初の目的は達せられたものの、藍染はこれから何かをしてくるのは明白だ。さらなる危機と戦いが起こる。
これは予感でも予言でもなく、確信だ。

「僕に残っているのは、霊力を失う前、ストックしておいた銀筒。これである程度の術を使うことはできるけど・・・圧倒的に戦うには不利だな。」
自分のこれまでの選択が間違っていたとは思わない。涅相手にはあそこまでしなければ勝てなかったのだから。

だが、銀筒には限りがある。いつ終わるとも知れない戦いでどこまでやっていけるのか。
だからといって戦いから身を引く気は無い。絶対にだ。
『たとえ力を無くしても・・僕は滅却師まで辞めるつもりはないからね。』

『・・・無様だな。反吐が出る。』
苦境に立った雨竜を父の竜弦は苦々しく眺めていた。
未熟な息子が、尺魂界にいけばこうなることは予期していた。
だが、実際にこの目で見るのは正に反吐が出る気分だ。

雨竜は父である竜弦が真の滅却師であることを知らない。そして知らせる気も無かった。
『お前にはどうすることもできまい、雨竜。
だが・・・私にはできる。

お前の今の反吐が出るほど無様な状態から、もう少しマシな無様な状態にしてやることがな。

・・・フン。私自ら動いてやる。ありがたく思え。』

竜弦が沈黙を破った。


「お願いします!兄様!!
私たちが虚圏に行くことをお許しください!」
白哉は自らの前に頭を深々と下げるルキアを無表情に眺めていた。
ルキアは今まで白哉に物を頼むなどということは皆無だった。
それどころか遠慮して、口を開くことさえ躊躇っていた。

「俺からもお願いします!俺たちを見逃してやってください!」
白哉の副官恋次も腰を90度に曲げて頼んでいる。
『・・貴様など、どうやろうが知ったことではない。何処へなりとも好きなところへ行けばよい。』
白哉はそう思ったが、さすがに口に出すのは止めた。
恋次はそうでも、ルキアはそうではないからだ。片方は野良犬だから好きにさせておけるが、もう片方は大事な妹だからならぬ、というのではさすがに公平な裁きとは言えぬ。

何よりルキアの目が叫んでいる。
「ここでのうのうと井上織姫を見殺しにしては、私の魂が許せませぬ!」
兄である自分がどうして、ルキアの魂の輝きに陰りなど入れさせることができよう。
たとえそれが・・・護ると誓った存在を死地に近づけることに他ならぬとしてもだ。

白哉は許した。
そして、その後一通の手紙をしたためる。

「どうした雨竜。もう終わりか?
それで滅却師のつもりなら、無様にもほどがあるぞ?
ままごとでもしているつもりか?」
「うるさい!!これでも・・くらえ!!!」
「フン、当たらんな。」
「くそっ。!!」
竜弦は時間の許す限り、雨竜を扱き抜いた。毎日毎日、雨竜の腰がたたなくなるまでだ。
われながら物好きだと思うが、時間が無い。
こうして雨竜に修行をつけられる時間は刻々と迫っている。
雨竜はもう直ぐまた旅立っていくだろう。
死と隣り合わせの戦いの場に。

そして・・・。

「どーもー。夜分恐れ入りますーって、まだ夕方っスけど。」
喜助が雨竜を迎えに来た。
新たなる戦いへと送り出すために。
「おや、お父さんいらっしゃらないんスね。こりゃラッキー。」

喜助は直ぐに気がついた。竜弦がわざと席を外している事に。まあ、一応自分も確かめてはいるのだが。
「う・・浦原さん・・・何の用ですか?」
大分これまで絞られていたようだ。これが竜弦の親心だと、この少年が気づくようになるのは一体何時になるのだろう。いや、この少年のことだ。気がついたとしても、ついてないフリくらいはするだろう。
『ホント、親子そろってツンデレっスねえ。』

そして現世の少年たちは虚圏へと旅立って行った。
「さあて・・と。まずは第一便出発っスねえ。さて、第二便は・・・と。」

程なく死神二名の第二便が虚圏へ旅立っていく。
「お兄様も、よく決断しましたねえ。
ホントは行かせたくなかったでしょうに。
・・・ま、だからこそこっちも急かされてんスけど。」

喜助の手には一通の手紙が握られていた。
中の文面はこうだ。

『鈍いぞ。浦原喜助。
初代科学技術局局長の名が泣く。

さっさと黒腔を固定しろ。』
いつぞや、白哉がしたためた手紙である。

「やれやれ。朽木隊長もせっかちな人っスねえ。」

皆、自分が思うよりもずっと多くの者達から愛情や信頼を寄せられている。
まだ若い彼らにはそれは解らないだろう。
愛しく、そして可愛いと思っている者たちをそれでも死地へ送り出すのは、送り出す方にとっても辛い選択なのだ。
そして、喜助自身もその一人なのだから。

「・・可愛い子には旅させよっていいますけど・・やっぱ結構辛いもんスねえ。」


ドン!!!!
・・・静かな虚夜宮に大きな振動が起こる。

新たな戦いの烽火だ。

「・・・来たか。」

それは些細なことだった。
藍染が予測していた一つが実現しただけなのだから。
これだけ考えなしとも言えるほど早く潜入してくるとすれば、容易に相手は想像がつく。

確認のために監視装置を作動させれば、壁面に画像が現れた。

「・・やはり君たちか。
相変わらず可愛いと思ってしまうほどの無謀さだ。

だが、残念ながら私は君たちのお相手が出来なくてね。
君たちを可愛がる役目は他の者に任せるとしよう。

しかし、破面の実力を知っていながら、この人数で乗り込んでくるとは・・。

可愛らしさと愚かさは同一線上にあるかもしれないね。

私の宮で存分に遊んでいくといい。おそらく相手には事欠かないはずだ。」


あの少年たちは敵だ。
しかし、何故か可愛らしい。もっと成長してくれないかと、心の中で考える自分がいる事を。藍染は承知していた。





なんちゃって。

 

 

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