固辞する男(志波海燕)

出世は早い方だった。
正直俺は席官が何席だのに、あんまりこだわっちゃいねえから、最初の頃は何席だろうが、頓着したことは無かったんだけどよ。
けどまあ、なんつったらいいのか、あんまり周りの奴らに比べて早いもんで、途中からは何やかんやと理由をつけて、断るようになっていた。

皆がみんな俺みたいに、席次にまったく拘らねえ奴ばっかじゃねえ。
一つでも席次を上げるために必死になってる奴らの方が多いのは解ってた。
そんな奴らからすれば、俺みたいな新参者が、席が上がってくのが面白くねえのは当然だ。

俺は傍からすればいつも、のほほんとしてる風に見えるみてえだし、奴らが余計ムカつくんだろうな。
実際絡まれたこともあったっけか。そん時、浮竹隊長がたまたま出くわして、その場を収めたんだが、そのあと俺に「すまない。俺のせいだ。」とかつって・・頭まで下げて謝ってよ。
それがまた本当にすまなさそうな顔させちまって・・。
なんかこう・・この隊長にこんな顔させちまった俺自身がスゲエ嫌な奴みたいに思ったもんだ。

浮竹隊長にそんな顔させたんじゃ、やっぱ部下として失格だからな。
それから昇進の話はのらりくらりで避けてた訳なんだが・・。

「海燕、頼む三席になってくれ。」
「へ?」
「お前しかいない。いや、こんどこそなってくれないと、逆に隊の雰囲気が悪くなるんだ。」
「なんスか?そりゃ。」
「お前が古参の者たちに気を使って、昇進を断っていることは解ってる。
だが、それももう限界なんだ。
お前の実力は誰の目にも三席として実力があるのが明らかだ。
そのお前を差し置いて、他の者が上の席次になることは、逆に実力があれば上に行けるという者の意識を低下させてしまう。

正直俺にも、なぜお前よりも実力が劣る者が上の席次に居るのか納得できないという隊士たちが居てね。
一応理由は言ってみたんだが、納得は得られなかった。

本当なら俺は副隊長になって欲しいと思っているところなんだが、とりあえず今は三席の話を受けてくれ。」
「は?副隊長?いやですよ。そんなの。絶対そんなのになりませんよ、俺。」
「そうか?三席も副隊長も席次が一つ違うだけだと思うがな。」
「全然違いますよ。
副隊長は、隊長の補佐であり、隊長不在の時は隊長の代わりに隊を動かすのが仕事でしょうが。
俺にはそんなの向いてません。ていうか、なんで副隊長を今まで任命してこなかったんスか?
いい人ならいっぱい居たでしょうに。」

ついでに、俺は今まで疑問に思っていたことを聞いてみた。
十三番隊には副隊長が居ない。
浮竹隊長が任命しないからだ。浮竹隊長はこういっちゃなんだが、体が弱い人だ。体調が悪い時、隊を安心して任せられる副隊長が必要だって事は、隊長自体解っているはずなんだが。

「・・確かに、実力だけなら副隊長を任せられる隊員はいたのだが・・。
だが、俺は副隊長にはもっと別のものも求めているのかもしれないな・・。」
「なんスか?別のものって」
「こう・なんて言ったらいいのか解らないのだが、副隊長に任せて隊の雰囲気が変わるというのは避けたいんだ。」
「けど、浮竹隊長みたいな人、そう居ないでしょうが。」
「ははは・・京楽にも言われたよ。
けど、俺はこの隊のことを一つの家族みたいなものだと思ってるんだ。」
「ウチの隊がですか?えらい大所帯の家族ですね。」
「ははは、そうだな。だが、俺の家族も兄弟だけで8人もいてな。大所帯には慣れてるんだ。」
「そりゃまた賑やかそうっすね。」

「そうだな。たくさん家族がいれば、いろいろな者が出てくる。
お前のように才にあふれている者もいれば、そうじゃない者もいる。」
「だから俺はそんなじゃないですから。」
「だが、どんな奴でも此処には安心して居られる。
もし何か困った事があれば誰かが必ず手を差し伸べる。
そんな隊に俺はなって欲しいと思ってるんだ。

副隊長を選べば、必ずその者が隊を動かさねばならん事態になってくるだろう。
その時に、ガラリと雰囲気が変わるようなことはしたくないんだ。
だから、なかなか副隊長を選べなくてね。」

少し溜息まじりに話す浮竹隊長からは、その条件が隊長にとっては絶対に曲げられないところなんだろうと俺は感じ取っていた。

『一つの隊が丸ごと家族ねえ・・。・・隊長らしいや。』
思わず、笑っちまった。あまりに隊長らしくてよ。

浮竹隊長の笑った顔は、男だろうが女だろうがイチコロだ。
かくいう俺もそうだった。
誰もが安心する。そんで誰もが心があったかくなる。

そんで、この隊長のためなら頑張ろうと思っちまう。・・誰だってな。

「・・三席の件、受けますよ。」
「本当か?!海燕!!ありがとう!!助かる!!」
ぱっと隊長の顔が明るくなった。
そうそう。やっぱ隊長はそうでないと。

「けど、副隊長の話は絶対ナシですよ?だったら受けます。」
「その辺は相変わらず義理立てか。

・・全くお前というヤツは・・まあ、それがお前なんだろうがな。」

「何とでも言ってください。俺は副隊長にはなりませんから。」


・・副隊長なんかに、ならなくても、俺は出来る限り隊長を支えますって。


上になるのはどうも、俺の性に合わないんすよ。

だから、副隊長だけは勘弁してくださいよ。


そんなもんになっちまったら、夢見が悪くていけねえや。





なんちゃって。

 

 

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