想定外(石田雨竜)

・・バレンタインデー・・。

恐らく世の男子諸君において、この日が「今年は何個になるのかな〜〜。ヤベエ、紙袋要るか?」・・なんて輩は・・・。
0.5パーセントも居ないのではないかと思われる・・。

嘆くな、諸君。
君の同志は99.5パーセントも居るのだから。←笑
それを負け犬の群れとかなんとか言う者が居ようが、それだけの大勢を占めてしまえば、怖いものなど何もない。うん。

さて、いわゆるモテる男というのは決まっているものだ。
まずは顔が良いこと。(笑)←
そして成績もしくは運動でズバぬけていること。
性格は明るい若しくは、思いきりクール。
とどめに家が金持とくれば言うことはないだろう。

石田雨竜。
上の条件のすべてに当てはまる男だ。
パパそっくりの見事な女顔(笑)。
成績は常に一番。でも運動だってちゃんと上位だ。
性格は社交性には少し欠けるが、クールだし、意外にクラスメートには親切だ。
そして留めは、総合病院の一人息子。
大金持ちのおぼっちゃまである。

まさしくバレンタインデーの希少な勝ち組になるために生まれてきたような男だ。
さぞかし、この日は大変なことになると巷では思われているのだが・・・。

『・・・・・・・。』
4時限目にして、未だチョコの数タコ(0)である。(爆笑)

自分は滅却師の生き残だ。あまり目立ってはならないとは思うし、そうしないようにはしているのだが、成績とこの顔だけでも大分目立った存在のはずだ。
しかし、未だにチョコのスメルとは無縁・・・。

『ま・・まあ学校にお菓子の持ち込みは禁止されてるしね。』

禁止されていようとなかろうと、学校の先生たちは渡されればホクホクして受け取るものだ。
オイラの通った学校も禁止されてはいたものの、先生へのチョコは無条件でよしとされていた(笑)。←まさしく本音と建前の世界←これぞ大人の世界とも言う(殴)
自分が受け取るチョコを、学生なら咎めるという先生は流石にあまり居まい。

ま、それはさておき。
雨竜は自分から声をかける方ではないが、かけられれば比較的に丁寧に対応する方だと自分でも思っている。
少々とっつきにくいかもしれないが、それでもゼロはあり得ない。・・と思うのだが・・。

「あ〜〜あ、今年もチョコはゼロかよ〜〜。」
「ほとんど皆そんなもんだろ?俺もだし。」
聞こえる聞こえる・・負け犬の遠吠えが。

「石田はどうせもらってんだろな〜。」
「あいつモテそうだもんな〜〜。」

・・言えない・・。自分もタコだなんて・・。ていうか、意地でも言わない。ツンデレの誇りにかけて。(笑)

渡したいと思っている女生徒は当然いた。
だが、渡せないと思わせる事情があるのである。

その一つに、雨竜が手芸部に所属しているということも起因している。
手芸部において人間ミシンなどと呼ばれる人物に、初めて作ったチョコを手渡そうとするような剛毅な人物はあまり居ない。
あの細かい縫い目を見るだけで「僕は細かい性格です。小さなことも見逃しません。中途半端も許せません。」と解る。
手製のラッピングも粗を見抜かれそうだし、かといって売ってるチョコで、病院の一人息子の舌を満足させるものとなると、少々学生には手が出しにくい。
ていうか、そんだけ頑張って「僕はそういうのは受け取らないんだ。」とか言われたら、立ち直れない。

そしてここにも女生徒達の憶測が飛ぶ。
『どうせ、石田くんのことだもの・・。たくさんもらってると思うし・・。あたしがあげたって・・。』

いや・未だ彼は受け取っていないのだ。実はだけど。

全てがそれぞれの想定外に動き、雨竜はチョコを貰えないまま、放課後の部活動の時間となった。

そこで彼は最初のチョコを受け取ることとなる。
「はい、コレ。
あたしたち手芸部からだよ。」

いかにも、な購入品だ。
うわ〜〜!ものっそい義理チョコスメル〜〜!!(笑)
むせ返るようなスメルのする逸品だが、雨竜はいつものポーカーフェイスで礼を言った。
「ありがとう。」

その義理チョコスメルプンプンの一品が、女子部員の抜け駆け禁止条例だの、ホンマに義理だのいろいろな思いが錯綜したものであることは、雨竜も知らない。

さまざまな者たちの想定外の事態において、雨竜はその日ようやく一つのチョコを入手するに至る。

人知れず、ほっと一息つく雨竜がいた。




なんちゃって。
 

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