冬至の祝(浮竹十四郎)

12月21日。
十三番隊では大宴会が開かれていた。

席に座るのは隊の者だけではない。
交友の広い浮竹らしく、他の隊からも多数この宴に参加している。
その筆頭は、浮竹の親友、八番隊隊長、京楽春水。
連夜の宴で始まる前からすでにいい調子になっていた。

そして、十番隊隊長、日番谷冬獅郎の姿もあった。
前日の自分の誕生日の宴に、浮竹は来た。尤も自分で開いた覚えは全くないのだが。
その浮竹に呼ばれた限りは、行かねばなるまい。
十番隊の宴会もにぎやかだったが、十三番隊の宴会はそのはるか上を行く賑やかさだ。
冬獅郎からすれば、ただの騒音としか思えぬような盛り上がりは、恐らく主役である浮竹の人となりを現しているのだろう。

浮竹は、人に囲まれるのがよく似合う。
誰からも好かれ、誰からも慕われる。

灰汁の強すぎる隊長陣において、浮竹の天真爛漫な性分は、ある意味異彩を放っていた。
反発し合うのがザラの隊長においても、浮竹と正面切って反発するものは誰も居ない。
こんなに人が良くて隊長が務まるのだろうか、と思うのだが、浮竹は隊長陣の中でもかなりの古株だ。

温かな性格。話すだけでこちらにまでその温かさが伝わるような。
浮竹は冬獅郎を随分と気に入っているらしい。
誕生日や名前の音が自分と似ているからなのだそうだ。弟のようにでも見ているのだろう。

『・・どこが似てるって言うんだ。全然違うじゃねえか。』
氷の様だと言われ続けた冬獅郎。だが、浮竹は陽だまりの様な男だ。
誰からも敬遠されて孤独に育ってきた冬獅郎と、大勢の家族に囲まれて育った浮竹。
感情を抑制する冬獅郎に、素直に自分の感情を表現する浮竹。

誕生日はたった一日しか変わらない。
だが、二人は全く違う。そう冬獅郎は考えていた。
『・・まあ、一日違いとは言え、俺は流魂街で浮竹は一応貴族だしな。瀞霊廷で生まれた奴はまた違うのかも知れねえが。』

折角の隊長格が3名もいるということで、席は隣接して設けられている。
はす向かいの浮竹は隊員達が大声で騒ぎ合うのを見て満足そうだった。
「・・・・・。」
その様子をチラリと見て、盃に口をつけようとした時だ。横の京楽が声をかけてきた。
「今、浮竹の事を『何にも悩みなんてなさそうだな』とか思っちゃわなかった?」

・・相変わらず鋭い男だ。僅かな表情を読んでくる。だから冬獅郎はこの男が苦手だった。
「・・・別に。」
「浮竹は、結構苦労してんだよ?ああ見えてもさ。
ホラ、浮竹の髪白いだろ?」
「何だ俺の話をしているのか?」
浮竹も話に加わった。
「お前さんの髪の話さ。今、日番谷クンに話してたんだけどさ。」
「ああ、コレか?そうか。日番谷隊長はまだ知らなかったんだな。
俺が小さい頃、肺病の派手な発作があってな。何日か生死をさまよって、何とか生還したんだが、高熱が続いてその際に髪の色が抜けてしまったんだ。以来、この髪の色さ。」
「それからも結構ヤバい時があったんだろ?」
「ああ。何回かはやっぱり派手な発作はあったんだが、何とか今まで来ているよ。」
「医師の先生には、”成人するまで生きられない”とか言われてたんだろ?」
「ははは。いまだにその先生は会うとその話をするよ。うちは貴族と言っても貧乏な下級貴族で、なかなか医師にもかかれない状況だったしね。」

・・とすれば、浮竹は幼い頃から死を絶えず意識して育ってきたと言う事か。
だが、浮竹からは死の影など全く感じない。
絶えず死を意識しながら、ここまで明るくなれるものなのだろうか。

「怖くなかったのか?死ぬのが。」
冬獅郎が正直に訊いてみた。すると間髪入れずに「最初はね。」と答えてきた。
「最初は?」聞き返す。最初は、と言う事は後は怖くなかったと言う事になるからだ。

「俺の事は俺よりも、家族の方がよほど心配してくれていたからね。
俺が死を怖がる気配を感じて、家族の方がより不安になるようだった。
俺はそんな家族を見ていたくなかった。
だから止めたのさ。」
「止めた?何を。」
「死を怖がる事をだよ。
俺の死は家族が心配してくれている。十分すぎるほどにね。
だから、俺はもう怖がる事を止めたんだ。

誰であれ死はいずれやってくる。不老不死の者など居ないだろう?
何時来るかわからない死を怖れるより、今生きている事を楽しむ方がずっといいとは思わないか?
特に俺はいつ何時どうなるか解らなかったしね。
だったら、一日一日を精一杯悔いの無いように生きた方がいい。明日死ぬとしても笑って死ねるようにね。」

「お前らしい考え方だな浮竹。」「全くだよ。ボクだったら、毎日くら〜〜く鬱々としちゃうけどねえ。」
「ははは。だが不思議なものでね。
そう思うようになったら、体が随分楽になった。
お陰で今に至ってる。」

目の前の浮竹は晴れやかな顔をしている。
そうやって前向きに全てを考えることで、苦難を乗り越えてきたのだろう。

「さ、折角の料理だ。食べてくれ、日番谷隊長。この南瓜の煮付けは旨いよ?」
浮竹は冬獅郎に何かと喰わせるのが好きだ。今日もしきりに料理を勧めてきた。
冬獅郎はふと気がついた。やけに南瓜の料理が多い。
「・・今日は冬至だったな。」

冬至。一年で最も昼が短く夜が長い日だ。
死をイメージさせる日でもある。

「俺は冬至の日が自分の誕生日というのも、何だか縁があるような気がしてね。」
「縁?」
「今日からはだんだんと日の射す時間が長くなるだろう?
一日一日と日が長くなるその喜びを感じて生きるように・・そんな風に示唆されてるんじゃないかと俺は勝手に思っているんだ。

だから、俺はこの日が誕生日というのを気に入ってる。」

何でも前向きに考える浮竹らしい考え方だ。
浮竹から感じる陽だまりの様な気は、そこから来ているのかも知れない。

「一応言っとくぜ。誕生日おめでとう。」
「ああ、ありがとう。君に来てもらえて嬉しいよ。」
「なんだい、ボクには言ってくれないのかい?冷たいねえ。」
「ああ、スマン。無論、京楽も来てくれて嬉しいよ。
ああ、そうだ。今日はうちの隊の風呂はゆず湯なんだ。日番谷隊長、帰りに入っていかないか?」
「そりゃいいねえ〜〜、たまには隊長同士、裸の付き合いでもしようじゃないの、どうだい日番谷クン。」
「ぜってえ嫌だ。誰がてめえらと風呂なんか入るか。」


騒ぎは未だ収まらず益々盛り上がりを見せている。
とうとう、三席の小椿が脱ぎはじめる。
「何、脱ぎだしてんのよ!アンタなんかのを見ちゃったら、隊長の眼が腐るでしょ?!この足クサ男!」
「何言ってやがる、この鼻くそ女!俺の褌芸を拝んでから言いやがれ!」
「ギャ〜〜!!!見たくない〜〜!ちょっと!!だれか早く止めんのよ!!マジで隊長の眼が腐るわよ!」

ははは・・と困ったような笑いを見せる浮竹。


それでも浮竹はどこか嬉しそうだった。





なんちゃって。

 

 

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