平和の在り処(藍染と東仙)

ある日のことだ。
十一番隊の隊長が交代した。
交代したというのは、適切な表現では無いかもしれない。
なぜなら・・なぜなら前十一番隊長を公衆の面前で惨殺し、あの男・・・更木剣八は十一番隊長の座を奪い取ったのだから。

前十一番隊長が弱かったわけではない。
ただ・・・あの男が魔物だったのだ。
負傷することなど、全く恐れもしない。
何より、戦自体を自分の生きる目的としていた。
戦うことが楽しくてたまらない。あの男は、全身でそれを表現していた。
息絶えた前十一番隊隊長の、羽織を何の感慨もなく、剥ぎ取る姿を見て私は戦慄を覚えた。
この魔物が、瀞霊廷を護る、護廷十三隊の頂点たる隊長になるのだ。
この魔物が、護るだと?!
この戦を欲する魔物が、瀞霊廷の平和を護ることなど出来るはずが無い。
反ってこれほど危険なことは無い!

・・・しかし現実は無情だ。
隊長の就任条件を果たした以上、この魔物は我々と並ぶ隊長になる。
私は目が見えない。だが・・このときばかりは目の前が真っ暗になるという体験を初めてした。

その夜。私はかっての上司である、五番隊隊長の藍染惣右介を訪ねていた。
あの人は平和を愛する人だ。
私の気持ちを分かってくださるに違いない。
そして、あの男を排除する方法を何か考えてくださるのではないか。
そう考えての行動だった。

「やあ、東仙。よく来たね。きっと僕のところへ来るだろうと思っていたよ。今日は大変な一日だったね。」
「藍染隊長。私はどうすれば・・・。
あのような魔物が我々と同列になるなど・・。
戦を好む魔物に平和を護ることなど、出来はしない・・・!!!」
「魔物・・か。そう言えなくも無いね。確かに彼は戦いを好む男だ。
しかし、戦の匂いに敏感なだけで、自ら戦を起こすようには、今のところは見えないが。
隊長を志願したのも、戦の最前線にいたいが為じゃないのかな。」
「では戦がなくなればどうなるのですか?そもそも、平和を護る護廷十三隊にあの男のようなものがいると思うだけでも、私は許しがたいのです!!」

「そうだね。だが我々の戦いにあの男の戦闘能力が必要だと判断されたから、この立会いが許可されたのだろうね。皮肉なものだが。」
「藍染隊長・・。私はこの世から戦をなくす為に・・・平和を叶えるために死神になりました。
そのために、努力もしてきたつもりです。
なのに戦は一向に無くならない。
まだ・・・まだ私の力は足りないのでしょうか。
一体何処まで強くなれば、それを叶えることができるのか・・・!!!」

「・・・・東仙。君は自然が好きだったね。」
「・・・?はい。」
「生命というものは、その存続に一番適切な、行動形成を取るものだ。
例えば、獅子や象、犬などは群れを作るし、虎やヘビなどは単体で行動する。
君から見て、人という生き物はどういう存続形体を取る生き物かな。」
「・・・群れを作ります。」

「そうだね。群れを作る動物において、その群れにおける平和というものは、そのリーダーにかかっている。
まずは、その力だ。圧倒的な頂点を持つ群れほど、平穏な時間が長い。
外敵からの攻撃を寄せ付けないからだ。
そして次は資質。どれだけ群れのものを大事にしてやれるのか。
これにより群れの仲間の信頼が強くなり、外からも中からも強い群れとなる。
結果的に平和となるわけだ。
ただし、平和もリーダーの衰えと共に、地盤は緩んでくる。そうしてまた次のリーダーが生まれる。」

「ですが、人は定めを作り、そのような存在がなくても平和になるように努力しています。」
「その通りだね。だが、動物にでも、不可侵の定めはある。例えば、若い猿などは、群れの子供の世話をしてなじまなければ、その群れでは存続できない、といったようにね。」
「つまり、人間界が一時的にも平和にならないのは、圧倒的な頂点を持たないから、というわけですか。」
「そうも考えられるのでは、と僕は思っている。」

「ですが・・・そんな力など・・・。」
「普通にしていたら無理だろうね。」
「では、平和を得ることはできないのでしょうか。」

「実は方法はある。」
「え?!!」
「この方法を使えば、死神の力の上限を取り外して、強くなれる。
ホロウよりも、死神よりも超越した力を得ることができるだろう。」
「本当なのですか?!!」
「ああ。だが・・・そのためにある程度の犠牲が出てしまうだろうね。
残念だが、これは避けられない。」

「平和が・・平和がそれで叶えることが出来るのですか?」
「僕はそう考えている。」
「私も・・・私も参加させてください!!お願いします!!」
「だが、そのためには戦うことも必要になる。その覚悟はあるかな?」

「・・・そのために死神となったのです。
平和のために、邪魔な存在があるのだとしたら・・・滅すも已むをえません。
そこに平和があるのなら、私は全てを懸けましょう。」
「そこまでの決心ががあるのなら・・僕についてくるといい。
君の全てを預かろう。そして、平和を創る新たな存在となるがいい。」


・・・美しかった人よ。
このままでは、何時まで経ってもあなたの願った平和は来ない。

美しかった人よ。
私は、貴女の棺の前でした誓いを必ず護る。

この世に正義が足りぬなら、私が正義そのものになる。
・・・そのための力を、・・・そのための力を得るためなら・・・・

私はどんなことでもやろう。
・・・たとえ、鬼になろうとも。

なんちゃって。

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