悲劇の幕開け(藍染と日番谷)
・・この頃・・藍染の様子がおかしい。
かと言って別段変った様子は無い。
・・いや・・見せねえようにしてるってのが本当のところだろう。
現に雛森は藍染の様子に疑問を持ってるようには見えねえしな。
だが、俺には・・藍染が何かを警戒しているように見える。
その何かが分かったのは、つい最近の事だ。
市丸の後ろ姿を、藍染の奴が普段見せねえような厳しい顔で見やっているのを見て、ピンときた。
・・・市丸だったのか。
藍染は直ぐに俺の気配に気づいたようだ。
厳しい顔を直ぐに引っ込めて、いつもの穏やかな笑顔に変わりやがった。
「やあ、日番谷君。
こんなところで会えるとは奇遇だね。」
声の調子も、挨拶の際に右手を上げるのもいつもと同じだ。
・・流石にそうそう悟らせねえってか。これだからオヤジは。
「今、市丸を見てたみてえだが?」
いきなり切りこんでやると、素直にしまったというような顔を見せた。
「ああ。この頃話す機会も殆どないからね、声をかけようか迷ったんだが・・。
結局止めたよ。
どうやら、僕はこのところ市丸に嫌われてるみたいだからね。」
市丸は昔藍染の副官をやってたみてえだが、今やそんな事はどこ吹く風ってな感じだ。
一応丁寧語は藍染に使ってはいるが、態度は喧嘩売ってんのか、てな時もある。
藍染はそれでも怒ったりしねえがな。
藍染は出来た奴だと思う。
だが、あんまり出来すぎってえのも、あんまよくねえと俺は思う。
だから、核心をついてやった。
「藍染。」
「何だい?」
「市丸の何を一体警戒してる。」
「・・!」
流石にこれには驚いたみてえだ。
茶色の目が見開いてこっちを見てやがる。」
「・・・何の事かな。」
「とぼけるな。
お前が、市丸の奴を警戒してんのは分かってる。さっきもホントは張ってたんじゃねえか?
言え、藍染。」
そこまで言うと、流石に観念したのか、藍染がふっと苦笑した。
「・・驚いたね。
・・確かに僕は市丸の動きを探っている。」
「理由は?」
「それは、まだ言えないんだ。
これといった証拠がまだないからね。
現段階では僕の憶測の範囲を超えない。
その段階で君に話す事は出来ない。
間違いだということもあるからね。
だから、この事は秘密にして欲しいんだ。」
「だが、もし本当なら相当マズいことになるわけだな?」
「・・・そうなるだろう。
・・そうあって欲しくないがね・・。」
そう言って、顔を曇らせる藍染。
・・・市丸は胡散臭い奴だ。
いつも妙な笑いを浮かべやがって、何を考えてるのか掴めねえ。
藍染が苦戦するのも分かる。
しかし、これだけ藍染が警戒するとなると・・・。
「俺に手伝えることがあれば、言えよ?
それから『言える段階』になった時もだ。」
「・・ああ。約束しよう。」
その時には藍染はいつもの藍染に戻っていた。
・・・だが・・俺はイヤな予感がしていた・・・。
しかしまさか・・・藍染が死ぬとは・・・。
・・・『数百年に一度の天童』・・・か。
賢い子供は好きだ。
理解が早くてこちらも助かるからね。
分かり切ったことを一々説明するのは結構面倒なことなんだ。
日番谷君はその意味では、実に優秀だった。
僕のわざと流した僅かな『サイン』を的確に察知し、正確に理解している。
読み解いた答えを、躊躇なくぶつけてくるのは性格なのかな?それとも若さゆえなのかな?
最速で核心部分に触れようとする姿には、隊長就任記録を打ち立てた君らしさに溢れている。
・・そう・・正解だよ・・日番谷君・・。
君の読み解いた答えはまさしく正解だ・・・。
・・・・ただし・・・
・・『作られた正解』なんだがね?
君は聡い。その年齢にしては素晴らしいものを持っている。
ただ・物事の裏側を見通すには・・君はあまりにも経験が足りない。
才能が補い切れぬ経験は、年を経るにつれ、そして数多くの事象に接することのみにより作られるものだ。
・・・ありがとう、日番谷君。
僕を心配してくれて。
そしてすまない・・・。
僕は非業の死を遂げることになっている。
そして・・・・
・・・君が何よりも護ろうと努力していた雛森君もね。
君が雛森君を手にかけるようにならないよう、祈るばかりだ。
・・どちらにしろ、君はこの悲劇の重要な登場人物だ。
いい演技を期待しているよ?
さあ・・・悲劇の幕開けと行こうじゃないか・・。
・・準備はいいかい、日番谷君?
なんちゃって。