向日葵(藍染と雛森)

・・『あの人』に言われたことがあるんです。

「・・雛森君は、まるで向日葵みたいだね。」って。

あたし、嬉しくって・・その後乱菊さんたちに言ったら・・・
「向日葵〜〜?藍染隊長も、どうせならもっと女の子らしい花に例えればいいのに〜。
もっと可愛い花いっぱいあるのにさ〜。」
・・だって。


でも、あたしは嬉しかったな。
だって、夏を代表する花でしょ?
そして、向日葵は元気をいっぱいくれる花。

そんな花に例えられて私はとっても嬉しかった。
そりゃ・・ちょっとは牡丹とか百合とかにも憧れてるけど・・。
でもあたしは嬉しかった。

向日葵みたいに…元気をいっぱいあげられるような人だったらいいな。
上を向いて、いつも笑っていられるような。
それで、そんなあたしを見て、藍染隊長も元気になってくれたら・・って思ってた。


だって・・・あたしは藍染隊長の傍にいるだけで誰よりも元気になれるから。



その向日葵が・・・あたしの机の上の花瓶に活けられてる。

五番隊の執務室に・・・・たった一人居る私の机の上に。
元気のないあたしを心配して、七緒さんがどこからか持ってきてくれたの。
季節はずれだから、大変だったろうな・・。
七緒さんは、どうしてあたしが向日葵が好きなのかまでは覚えてないみたい。

あたしの大好きな向日葵・・。
今は見るのがつらい・・・。
でも・・やっぱり好き・・・。

本当だったら、あたしはまだ四番隊で休んでなくちゃいけないの。
でも一人で横になってると、怖い夢ばかり見てしまって・・。
それで、卯ノ花隊長に無理を言って出してもらってる。

病み上がりだからと、仕事も無理のないように五番隊へ回される量は山本総隊長からずい分減らされてる。
・・・その分、他の隊に迷惑かけてるんだよね・・。
ゴメンね・・。気を使わせるばかりか仕事で迷惑かけちゃって・・。

でもやっぱり仕事をしている方がいい。
気が紛れるし、夢を見なくてもいいから。
本当はもっと仕事をしていたいんだけど、卯ノ花隊長が山本総隊長に量を制限するように何かおっしゃったみたい。
ダメだと言われちゃった。

藍染隊長がいらしたときは・・逆だったのにね。

「また総隊長からの追加書類ですか?」
「ああ。何でも急に仕上げなければならない書類が出来たそうでね。」
「もう〜〜、昨日もそう言って3つも持っていらしたのに。」
「ははは。総隊長も色々あるんだろう。
我々は、隊の一員として協力してあげなければね。

・・・ああ、雛森君は定時で今日は上がりなさい。昨日も残業させてしまったしね。」
「藍染隊長が残業されてるのに、私だけ帰れません!私もやらせていただきます!」
「・・ありがとう、雛森君。君にはいつも感謝しているよ。
だが、1時間だけだ。それで今日は帰りなさい。

・・いいね?」

「・・はい。藍染隊長。」

・・・優しかった。
いつも私のことを考えてくれてた。
私が何を考えているのかも、私が体調が悪い時もすぐに気付いてくれてた。

・・・その藍染隊長の机には・・何も残っていない。
藍染隊長が使ってらした筆に至るまで、捜査資料としてみんな押収されてしまったから。
机と椅子も細工がないかどうかを調べて、何もないと分かってそれだけがここに残された。

『私が天に立つ』
藍染隊長は、虚圏に行く時、そう言ったみたい。
藍染隊長・・天に立つって・・・何なんですか・・?
私には分かりません。
だって、私にとっては太陽そのものだったのに。
少なくとも・・私の天にはあなたがいたんです・・・。


私が向日葵だというのなら、私はこれから何所に向けて花を咲かせればいいのでしょうか・・・。

私には・・・分かりません・・・。



・・・藍染隊長・・・・。




虚圏の一室でコントロールパネルに灯りがともっている。

「どうやら雛森ちゃん、助かったみたいですねえ。」
「・・あの状態から蘇生させるとは、流石は卯ノ花隊長だね。
称賛に値するだろう。」
「おやまあ、雛森ちゃんに対してはなんもナシですか。」
「・・気の毒だと言うしか無いね。
やはり、ちゃんと殺しておくべきだった。

その方が彼女にとっても周囲にとってもよかっただろう。」
「冷たいなあ。あんなに可愛がってはったのに。

なんや聞いたことありますよ?何でも雛森ちゃんのこと、向日葵みたいやて言うたんですやろ?」
「・・・お前にまでそんな事を言っていたのか。」
「よっぽど嬉しかったんちゃいます?」

「言った覚えはあるよ。確かに雛森君は向日葵みたいだったからね。」
「その調子やと、エエ意味で言うたんちゃいますやろ。」

「向日葵は太陽に向かって花を咲かせ、太陽の運行の角度と同じく花を向ける角度さえも変える。
つまり、太陽の動き次第なわけだ。

しかも太陽しか見ていないため、大局を見渡せない。

・・彼女らしいじゃないか。」
「ほな太陽が無くなってもうて、さぞかし今下向いてますやろなァ。」

「下を向いて咲く向日葵などに価値は無い。

・・・やはりちゃんと止めを刺してやるべきだったな。」

「ホンマ悪いお人やなァ。
雛森ちゃんも、酷いお人についてもうたもんや。
気の毒すぎて何も言えへんわ。」



・・・その頃、雛森は花瓶の向日葵に見入っていた。


切り取られ、今は太陽を失った向日葵の花が雛森に向かい花を咲かせている。


・・・そして陽が陰っていった。






なんちゃって。

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