雛鳥たちの内緒(恋次、桃、イヅルのお話)

・・・見た目と中身が全然違うって奴、いねえ?
俺の知ってる奴にもいるんだ、これが。

俺は阿散井恋次。真央霊術院の1年1組の生徒だ。
一応、特進学級に入ってる、エリートの卵ってやつだ。
何でも戌吊出身でいきなり1組に入った最初の奴になるんだそうな。
おんなじクラスの連中は、お育ちのよさそうなボンボンばかり。
ま、当然俺みたいな奴は浮きまくりだ。
授業中はまだしも、休み時間にでもなると俺の半径2メートルには誰も近よらねえ。
そのくせ珍獣を見るみてえに、ちらちら俺を見てやがる。
そんなに、珍しいかよ、戌吊出身が。

当然珍獣で特進クラスに入ったもんだから、イジメってやつも相当なもんだ。
最初は腕力勝負できたんだが、俺が強いんであっさり別の方法で来やがった。
盗みの濡れ衣を着せてくるようになった。
こっそり、俺の目を盗んで机の中に教科書だの、筆記用具だのを突っ込んで自分が大騒ぎしておいて、「おや、阿散井君の机から出てきた。」という、独創性の無いイジメだ。
手段は旧くても、効果はてきめん。
俺は職員室の常連となっていた。

直ぐにそれがエスカレートして教職員の持ち物まで俺の机の中に突っ込まれた日、そいつが突然爆発した。

「阿散井くんは、取っていません!!私は見ていました。森君が財布を阿散井くんの机に入れるところを!」

俺だけじゃなく、皆がびっくりした。そりゃそうだ。そう言ったのが、1組の野郎共のマドンナ的なやつだったから。
雛森桃。かわいい顔で小柄。優しくて性格もよく、成績も良くて面倒見がいいとくれば、当然男どもはメロメロだ。
特進クラスに入れる女なんて少ないもんだから、なおさらうかつに手が出せずにマドンナ化しつつあった。

これ以降、俺を取り巻く状況が一変した。
なんせ、マドンナが俺側についているっていうんで、ぴたりとイジメは無くなった。
何故か、それまで静観していた学級委員の吉良イヅルって奴までが何かと俺の世話を焼いてくるようになった。

それ以降、何かと同じクラスではこの3人でいることが多くなっていた。

雛森桃には正直びっくりした。
普段は、大人しくてかわいいんだが、正義感ていうのが異常に強く、間違っていることなら相手が誰だろうが、どういう状況だろうが「あなたのやっている事は、間違っています!!」と、ばっさり斬る奴だった。

間違いを指摘されて、逆ギレした奴が何かしようとすると、すかさず吉良の野郎がフォローに回る。これでダメなら俺も出る。
学級委員の吉良が出てくると大体は向こうもしぶしぶ引き下がる、そんな感じだった。

吉良のやつは、成績・・特に学科は抜群にいい優等生って奴だ。
真面目でいい奴だが、神経質なところもあるし、トラブルに巻き込まれるのは極力避けるタイプだ。
しかし、雛森のことになると実に冷静に誠実に対応する奴だった。

あんまり、だれかれ構わず間違いを指摘するんで、何でそんなに後先考えねえんだ?と聞いたら、あいつ「だって、間違ったことは、間違ったことでしょう?指摘できないことの方がおかしいわ?」と言いやがった。
こりゃ〜、ダメだ。

5年の先輩(しかも、貴族出身だぜ?)が、後輩にセクハラしてるのを指摘して、替わりに俺と吉良がボコられた時は流石に涙目になっていたが、基本的には変わらなかった。
なんていうか・・・見かけによらず猪突猛進なんだよな・・。

そんな時でも、吉良は必ず雛森をフォローしていた。
神経質なくせに、どうしてこんなに雛森のことになると一生懸命になるんだ?こいつ。

ボコられて怪我をした俺たちのために、雛森が救護室へ人を呼んでいる間に、俺は奴に聞いたんだ。

「なあ・・・なんでそんなに雛森のこと、庇うんだ?間違っているとは思っても、この先命令に従わないといけねえ事なんて腐る程出てくるぜ?今のうちに、知らせてやるのも重要なことじゃねえのか?」
「そうだね・・・。彼女だって必ず知る時が来ると思うよ?」
「だったらなんで。」

「僕は・・・気が小さいせいか、上手く立ち回ることばかり考えてきたんだ。トラブルにならないように、そして巻き込まれないように。
間違っていると分かっていててもね。ずっとそうやって育ってきたんだ。
でも・・・間違いを間違いだと考え、そして発言できるということは素晴らしいんじゃないかな。僕は、彼女をその意味でとても尊敬している。・・・そして・・
出来ればずっとその気持ちを持ち続ける人であって欲しいんだ。」
「でもよ。」

「うん、君の言いたいことは良く分かるよ。でも・・・彼女のやっている事は間違っているかい?」
「イヤ・・間違っちゃいねえけどよ。」
「彼女は・・・純粋な正義を持っている。手段は間違っているとはいえ、その善悪の判断は、理論を越えて正しい。・・・僕はそう思う。」

驚いた。こんなことを考えているとはな。

「だから、僕はなるだけ冷静に事態を処理しようと考えるんだ。ここを総動員させてね?」
と、頭を指差して少し照れながら吉良の奴は言った。

こいつ・・・気の小さい奴だと思ってたけど・・・意外と強ええな。
俺が吉良を少し見直した時だった。

「ふ〜〜ん、じゃ、しょうがねえ。俺もそれに乗っかってやるか。」
「有難う、阿散井君。あ、でもこのこと雛森君には内緒だよ?」
「どうしよっかな〜〜〜?」
「阿散井君!!」

俺たちはまだひよっ子だ。
これから、いろんなことを学びながら成長していく。
これは、そんなひよっ子どもの内緒話だ。

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