日はまた昇る(檜佐木修兵)
・・・一人になりてえ時、俺はバイクを転がす癖がある。
特に何か煮詰まった時は、明け方、日が昇る前に東の海に向かって走らせる。
走らせる時は何も考えねえ。
ま、もちろんスピード違反なんぞで捕まらねえ程度には飛ばす。
聞こえるのは、バイクのエンジン音だけだ。
そして、時折踏むクラッチの音。
今の相棒はKawasaki、ZZ-R1200の黒。
何故か俺には今一番しっくり来る相棒だ。
そして、白みかけた早朝の道を走っていく。
岬に到着した時にはもう、日が昇りかけていた。
・・毎日、繰り返される一日の始まりだ。
日が昇る時と、沈む時は普段の太陽と違い、より強烈な力を感じる。
「今日はまた日が昇った。
しかし・・明日また日が昇る保障はどこにあるのか?」
昔、インカとかいう古代帝国では、明日の日を昇らせるために生贄を絶やさなかったらしい。
時には何十人もの人の命が、明日の日を昇らせるために、太陽の神とやらに捧げられたんだそうだ。
・・馬鹿らしい。
今の人間たちなら、誰もがそう思うだろう。
そう、その古代帝国の人間たちは・・・藍染隊長に踊らされていた俺たちみたいなもんだ。
誰もが疑問に思いつつも、疑問の根幹に触れる事をしない。
・・・それがあの頃の俺たちだった。
タバコを吸いながらぼんやりと昇る朝日を眺める。
・・そう、日はまた昇るもんだ。
雨だろうが台風だろうが、天候で見えねえ時でも日は昇る。
問題は・・・俺たち一人ひとりが昇る日を見れるかどうかだ・・。
明日の日を拝むためには、俺たちが生き残ってなきゃなんねえ。
・・・決戦は近づいている。
ふと、脇に止めたバイクに目を留める。
車よりもコイツが好きだって奴は基本的に我侭な奴だと思う。
走りは誰にも邪魔されたくない。
ダベるなんざ、もっての外って奴がコイツを選ぶ。
その癖、誰かと走りてえと思えば、そいつと体をくっつけて走るっていう、乗りモンだ。
話はしたくねえけど、体温は感じてえって訳だ。
・・・たく、我侭なシロモンだぜ・。
だけど、日の出を見るときはコレに限る。
普段は、我侭なんぞ言ってるヒマなんざねえ。
ま、でも、素に戻る時間は誰でもいるもんだ。
だからこそ、また「何時もの俺」の仕事が出来る。
・・・日はまた昇る・・。
・・昇った日っていうのはもしかして、求められてる「俺」なのかもな。
日の出と日の入りは、「本当の俺」を出す瞬間と殺す瞬間なのかも知れねえな。
どっちがどっちなのかは分からねえが・・・。
・・・とりあえずは俺の日は今日も上がりそうだ。
ま、とりあえず明日は正直分からねえけどよ・・・。
何時かバイクのケツに誰か乗っけて朝日見るようになるまでは、頑張らねえとな・・。
なんちゃって。