潜むる巨悪(藍染惣右介)

・・・君は自らの行動と本心が常に一致するタイプなのかな?

それとも・・・自らの本性というものが存在しながらも、実際の生活においてはその一部分のみ若しくは全く別の自分というものを外界に投影させているタイプかな?
少しわかりやすく言えば、本音と建前みたいなものだろうね。


・・・僕かい?・・・どうかな。


恐らく誰しも子供のころは、前者のタイプのはずだ。
自分の欲望に忠実であり、その要求をする。
・・・当然のことだろうね。

しかし、そうすることで周囲と軋轢を覚え、自らを修正もしくはその要求の表現を変化、若しくは取り下げることでその周囲と調整を図ろうとする。
それも当然のことだ。

それが出来ない者は、社会から高い確率で阻害されるからね。
社会から阻害されかねない要求を持ち、なおかつ妥協出来ない者はではどうする?
自らの殻に閉じこもる者も多いだろうね。

でもそれだけが方法じゃない。

・・・・その要求を実行するだけの力を手に入れればいい。


無論、その力を手に入れるためには努力と忍耐が必要だ。
しかし、力とはそうたやすく手に入るものではない。
それくらいも出来ないようなら、社会から阻害されるような欲望は持たないほうが身のためだろうね。


僕はひとつのことをライフワークにしているつもりだ。
それは「藍染惣右介という存在が、何処まで高みを極められるか」ということだ。

死神としての存在での限界強度までの距離が見えてしまったとき、僕は次の段階をすでに模索していた。
死神という領域を超えることを。

無論、禁断とされていることだ。重大な罪であり悪とされる。
では、聞こう。

「何故、死神の領域を超えることが『悪』であるのか。」


その領域を目指して、自らを危険にさらす者が増えるためかい?
そんなものはただの詭弁だ。
その領域を目指すものは、危険を承知で挑むのだから。

理由は実は簡単だ。
その存在を認めてしまうと、それまで支配階級で既得権益にどっぷりと漬かってしまっている者たちが、制御出来なくなるからだよ。

四十六室という、昔は腕が立ったという今では化石となりつつあるご老人たちの集まりには、手には負えないだろうからね。
貴族社会という階級制度もそうだ。霊圧が高レベルで生まれることが多いというのが、貴族の証であり、同時に平民を納得させるステータスであるのに対し、別次元の強さの存在はただの邪魔にしかならない。
新たな挑戦をする者は、彼ら既得権益を受け取る者にとって悪なのだ。

つまり、僕のライフワークはこれら尺魂界の仕組みを破壊することになるわけだ。
ならば、僕が死神の領域を超えるときは、その仕組みごと破壊してやるというほうが、いっそ情けかもしれないね。

すでに、尺魂界は制度そのものは評価する価値さえない。

集まる価値など無い隊首会。
内容は、山本総隊長の問題提起から始まり、カビの生えたような持論の展開、そして一方的な結論報告と指示で終結する。
それが隊首会の決定というわけだ。
・・・くだらないね。そんな内容ならば、地獄蝶で済むはずだ。

明らかに必要かつ早急な装置の導入にさえ、四十六室の許可が必要だ。
化石と化した老人たちに、新しい装置の機能と使い方を理解させなかればならない、技術開発局の者達には常に同情しているよ。
・・・・何時だったかな、「そんなややこしいものは使わんでよい。」と結論を出されたというのが、24回目だとか聞いたのは。

僕も老人の経験や知識を軽んじるつもりは無い。
だが、それにより必要な機能が損なわれるというなら話は別だ。
老人は自らの保身のために働くのではなく、次なる時代のために働くべきなんじゃないかな?


「藍染惣右介という存在が、何処まで高みを極められるか」
それを追求することが、この世界にとって悪というならば、僕は巨悪になろうじゃないか。
この世界を震撼させる巨悪に。

だが、今はまだそのときではない。
まだその力は揃ってはいない。

潜めよう。完全に。
欺こう。完璧に。

悪を知る者は同時に善を知る者だ。

その時が来るまでは、僕は完全な善の者で居続けよう。

僕の中の悪を完全に閉じ込めて、来るべき時のために潜ませる。
その分、力を溜めるのだ。



巨悪は潜む。善人の裡に。


完全な良識と、完全な優しさの裡に潜んでいる。


・・・・穏やかな笑顔の奥底には・・・・



・・・悪の巨大な刃が潜んでいる・・・・



・・・振り下ろされるその時を待ちわびながら・・・


・・・悪の刃はその時を待つ。







なんちゃって。

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