陽射し秋めく(海燕と浮竹)

10月の終わりが近付くころ。
秋晴れの十三番隊、隊舎の屋根に一人の男が横たわっていた。
昼休みの休憩時間。残りの時間を此処で休むことに決めたようであった。

黒い髪の男だ。頭の後ろで組んだ腕からは志波家独特の形の刺青が見える。
「逆巻く水」

深い海のように男の目は蒼い。

その目は同じ青でも少し違った色の空を見上げていた。

「なんだ、こんなところにいたのか?」
音もなく近寄り、話しかけるのは彼の上司だ。
「浮竹隊長?もう体の方はいいんスか?」
恒例の肺の病が出た浮竹は二日ほど休んでいた。

「ああ。もう大丈夫だ。
また世話をかけたな。すまん、海燕。」
素直に頭を下げる浮竹に、屈託無い笑顔で返す海燕。

「いいんスよ。こっちは隊長がいない間、代わりに隊長の気持ちになってますから。
結構イイもんスよ?気楽にやらせてもらってます。」

言いつつ、浮竹の病欠は度重なるものだ。
しかも、いつ勃発するか分からない。
それを完璧にフォローすることは並大抵のことでは出来ないはずだった。

にもかかわらず、よほどの緊急且つ重要でもない限り、海燕は病床の浮竹に仕事の話は持って行かせない。
話を持っていけば、浮竹は無理を押して隊に出てくると知っているからだ。

肝心の隊長が病気勝ちにもかかわらず、十三番隊の雰囲気は実に明るいものだった。
それは、補佐をする海燕の人柄によるものが大きいだろう。

天才と言われているほどの能力を持ちながら、全く普段それを感じさせない。
部下にも親身になって答え、およそ高圧的という態度とは無縁の男だった。
なぜかこの男の傍にいると、沈んでいた心が晴れやかになる。

天性の陽の霊圧を持つ男だった。

今現在、時期隊長にもっともふさわしい者として、名が挙がる海燕だが、本人は出世よりも十三番隊で副隊長をしている方が、いいという男だった。


浮竹は誰にも言ったことはないが、自分が引退し、後を海燕に任せることも考え始めていた。
自分の体調のせいで、この男に他の副隊長がしなくてもよい苦労をさせている事には変わりはないからである。

「・・・いつもすまないな・・海燕。
次に隊長になるのは間違いなくお前だ。その時には俺が全力で推すつもりだ。」

浮竹の心の声が言葉になる。
それを聞くと海燕の片眉が上がった。そして起き上がる。
しかし目は遠くを見たまま話し始めた。

「今のうちに言っときますけど・・妙な気は回さないでくださいよ?浮竹隊長。
俺は浮竹隊長の下でやりたいんスから。」

「しかし海燕・・お前ほどの男が・・。」
「『お前ほどの男』か・・・でもその『お前ほどの男』は、浮竹隊長の下でやりたいんスよ。

俺は浮竹隊長の、部下の気持ちを考えてやる気持ちと懐の深さにホレてるんですよ。
それに個人的に俺は隊長に大きな借りがある。

隊長の病欠の穴くらい埋めるのなんて、苦労でも何でもねえし。


・・下でいさせてくださいよ。
だから・・・余計なことは考えないでくださいよ?

浮竹隊長。・・・頼みますから・・。」

浮竹がひとつため息をつく。
そして、次には浮竹らしい明るい顔で言った。
「そうか。じゃ、これからも頼む。海燕。」
「了解!隊長!
こちらこそ、ヨロシク!!!

ところで・・隊長・・頼みがあるんですが・・。」

「何だ?言ってみてくれ。」
「俺・・今日、誕生日なんス・・・。」
「ああ!そうだったな!!スマン、忘れてた!」


「誕生祝に奢ってくれませんかね。」
「何をだ?」
「ラーメン」
「・・・ラーメン?!!そんなものでいいのか?」
「今スゲエ、ラーメン食べたいんス。仕事終わったらでいいですから、奢ってくださいよ〜〜。」
「ははは!いいとも!食いに行こう!」
「やっぱ豚骨ですかね。」
「俺は今魚系がブームなんだが。」
「それもいいですね、ハシゴしましょう!!
ラーメンのハシゴ!!」


屋根の上から隊長と副隊長が楽しそうに語らう声が聞こえる。
陽射しは少しずつ弱くなるも、穏やかな日。
秋の空には笑い声がよく似合う。


それを聞きながら、隊員もまた不思議と和やかな気分であった。





なんちゃって。

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