干し柿怖い(吉良イヅル)

和菓子職人の間ではある一つの格言があるという。
「菓子は柿より甘くしてはならない。」

ちなみに、ここにいう柿とは干し柿を指す。
すなわち、和菓子において許容される限界の甘さ、その甘さを持つのが干し柿なのである。

・・・・護廷十三隊、三番隊。
この隊は冬になると隠れた呼び名で呼ばれることがある。、。

・・・・通称「干し柿隊」。
くれぐれも言っておくが、渋柿隊と混同しないように。

これは三番隊隊長、市丸ギンの干し柿好きが高じて隊で干し柿を作っているためだ。晴れた冬の日・・隊舎の軒先には干し柿のすだれが並ぶ。
冬の隊の風物詩でもあった。

しかし、隊の風物詩である干し柿。
実は副隊長たるイヅルは大の苦手であった。
イヅルはうす味が好きだ。そしてなるべく消化の良いものが好きでもあるし、とる様に心がけている。
理由は、胃腸が弱いためである。
元々体質的にも胃腸は弱い傾向にあるのだが、ストレスなどが加わると余計悪くある。

・・・そのイヅルに、甘さの限界といわれる干し柿の甘さはちとキツいものがあった。

イヅルが干し柿を初めて口にしたのは実は護廷十三隊に入ってからだ。無論、ギンに勧められたのである。
それまで、干し柿に接する機会はあったのだが、イヅルに取って干し柿は、不気味に変色した柿のなれの果てにしか見えなかったのである。とても口にしようとは思わない対象だった。

最初に入隊した隊は五番隊だった。その頃副隊長をしていたギンは、当時も無類の干し柿好きだった。
その季節になれば、大量にどこからか購入してきて、自らも気前よく他に分け与える。
その一つがイヅルに回ってきたのである。

「イヤ・・僕は結構です。」と言いかけた時、「まァまァ。イヅル。そう言わんと一辺くらい食べてみたらええやん。食べたこと今までないんちゃう?」
と言い当てられた。
「はあ・・。」
「食わず嫌いは、ようないで?食べてみたら結構おいしいかも知れへんし。ものは試しや。ホレ、あ〜〜んしてみ?あ〜〜ん。」

あ〜〜んてする年ではお互い無いだろうと思いつつも、上司がここまでしてくれるのだ。流石に食べない訳にはいかなくなった。
そこで、目の前に突き出された干し柿に思い切って口をつける。

・・ぐにっ。
あり得ない食感がイヅルの口内でした。
しかも直ぐに噛み切れない。
流石に何時までもギンに自分が食いついている干し柿を持たせているわけにはいかないので、持ちてを自分にチェンジする。

干し柿は元は柿だ。しかし、イヅルが口にしているものは最早元果物という名残は無い。
どうにかこうにか噛み切って、咀嚼した口内を今度は限界の甘さが襲う。

「!!!!!!!」
「どや?案外美味しいやろ?」
いつもよりも余計に口角を上げて自分を見ているギンに、「僕の口には合いません。」と事実を伝えられるほど、イヅルの神経は太くない。
一度口にしたものを吐き出せるほど、お育ちは悪くないイヅル。

残された道は無理やりゴックンするしかない。
弾力があり、飲み込みにくいのがこれまた、イヅルを苦しめる。
死にそうな思いをしてようやく口の中の物を飲み込んだ。
ふと見ると、ギンは未だ自分を見ている。

その次にイヅルが目にしたものは、自分の右手に握られている、食べかけの干し柿だった。

『やはり・・これを全部食べなけりゃなんないんだよな・・・。折角市丸副隊長から頂いているんだし。

(イヤ!無理!!絶対無理!!一口目でもう限界だから!!ていうか、この干し柿の何処が美味しいのか僕には理解できないよ!)

だが、市丸副隊長から自ら頂いているんだぞ!?今更「嫌いです」で済まないだろう!せめてこの手にしたものだけでも完食しなければ!!

(完食?!!ありえないよ!もう胃がなんか痛くなってきてるし!!)

では、市丸副隊長の好意を無にするつもりなのか?!

(ああ〜〜!!!お腹もゴロゴロしてきたよ〜〜!!!)

・・・・僕は・・・最低だ・・・・!!』


いきなり、イヅルは残りの干し柿を丸ごと口に放り込んだ。
そして、もごもごしながら、「ちょっと失礼します!」と言い置き、脱兎の如く去って云った・・。

一陣の風の如く去って行ったイヅルを見送ったギン。

「・・・へたの所は流石にボクも食べんのやけどなァ・・。」
独り言が後から追いかけた。


その後2日間、イヅルはげっそりとした顔で同期の雛森と恋次に心配される。。


どうやら腹を壊していたようだ。
それ以来、イヅルは干し柿を口にしていない。


そして、三番隊副官となった今でも、軒に吊るされた干し柿を見ると、何やらアンニュイな気分になるようである。




なんちゃって。


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