古き盟友、2対の剣(京楽と浮竹)

7月の暑い日差しが照りつける、ある日、門の楼閣で涼んでいた京楽に訪ねてきた者がいた。

「やあ、相変わらず呑んでいるみたいだな。」
「十四朗?お前さん、こんなところへ来て大丈夫なのか?」
「ああ。今日は調子がよくてな。それより珍しいものが手に入ったんで届けに来たんだ。」
そういって浮竹が差し出したのは1本の酒。
「こりゃあ、幻の酒『酔花』じゃないか!お前さんよく手に入ったね。」
「ようやく、伝が出来てね。お前ずっと呑みたがってたろ?少し遅くなったが誕生日の祝いだ。受け取ってくれ。」
「そりゃあ、嬉しいが。・・こんないい酒一人で呑むのはもったいないね。」
「それでは、俺が相手をしよう。今からでもやらないか?」
「体に毒だろ?無茶はよしなよ。」
「少しくらいならかまわんさ。本当に今日は調子がいいんだ。」

それでもためらう春水をよそに、浮竹はさっさと1升瓶の封を切り、持ってきた2つの杯に注いでしまった。
「ほら、春水。」
「全く・・・じゃ、有難く頂くとしますかね。」
お互いに目の高さまで杯を上げる。
「何に乾杯しようか。」
「そうだねえ。俺たちの友情ってやつに乾杯するとしますか。」
「はは。それはいい。じゃ、俺たちの友情に乾杯。」
「乾杯。」

浮竹は最初の一杯こそきれいに干したが、二杯目からはほとんど進まなかった。
しかし、杯は手に持ったままだ。

「・・・久しぶりだな。お前とこうして呑むのは・・」
「そうだねえ。お互い偉くなっちゃったしねえ・・」
「学院時代はよく呑んだな。」
「二日酔いで訓練に出て山じいによく叱られたもんさ。」
「怖かったな。」
「俺なんざ、『お前がそそのかしたのであろう、この悪がきめが!』とかで、しょっちゅう叱れてたねえ。ま、実際そうだったんだけどさ。」
「俺は楽しかったぞ?それまでサボるとかしたことがなかったからな。」

「・・・あれからずいぶんたったものだな。」
「お互い年を取ったしねえ。お前さんとも長い付き合いだ。ま、これからもよろしく頼みますよ?」
「それはこちらの台詞だ。といっても、俺のほうがどうだかな。」

浮竹の病は治らない。四番隊の隊長である卯ノ花烈にさえも治せなかった。
病は少しずつ浮竹の命を奪っている。
本人はなるべく見せないようにしているが、長い付き合いの春水にはよく分かっていた。
一人で呑むことが増えたのも、それまで付き合ってくれていた浮竹が病を発症してからだ。

「おいおい。せめて山じいよりは長生きしてくれよ?お前さんが先に死んじまったら流石の山じいも泣くぜ?」
「山じいよりもか?それは大変そうだな。」

お互い、治る見込みの無いにもかかわらず、きっと治ると言い切れるほど、最早若くは無い。
けれど医療の技術が日進月歩で進む中、治る見込みを全く捨て去るほど老いてもいない。

「なあ・・俺たちの持っている刀は二本で一対だ。一本でも欠けたら意味を成さない。・・・俺たちもそうなんじゃないかと、俺は思っているんだ。」
「・・・そうだな。」
「だから長生きしてくれよ?・・・頼むからさ。」
「ああ。・・・そうだな。」

その日は何時になく、酒が進まない春水だった。


inserted by FC2 system