冬の虹(三番隊と五番隊)

陽が射す冬のことだ。

出先から帰ろうとしていた、五番隊隊長の藍染及び、副隊長の雛森は小雨に降られた。
俗にいう天気雨で、陽は相変わらず射している。

そのまま帰ることも可能ではあったが、藍染は1本の傘を借りた。
「雛森くん。入りたまえ。」
「ええ?!!」

雛森が驚いたのも無理はない。
相合傘をしようと言われたのだから。
「いえ・・私は・・・。」
「小雨とは言え、今は冬だ。体に毒だからね。」
「では、もう一本お借りします。」
「ここにあるのは置き傘だ。2本もお借りするのは少し気が引けないかい?」

「では、私が傘をお持ちします。」
「ありがとう、雛森くん。でもこの身長差ではそれは少し無理がある。
気にすることはない。隊舎につくまでだ。」
「は・・はい。・・すみません。」

僅かな水滴が降る程度だ。
1本の傘で十分だった。
道を半ばほど戻った時のことだった。

「おや?これはまた、相合傘とは。
五番隊の隊長さんと副隊長さんは相変わらず、仲がええみたいやねえ。」
「市丸隊長!!」

見れば、三番隊隊長の市丸ギンと副隊長の吉良イヅルだ。
こちらは各々1本ずつ傘を差している。
几帳面なイヅルが、面倒くさがるギンに持たせたに違いないだろう。

「出先で降られてしまってね。小雨だったから1本だけ借りたんだよ。」
穏やかに説明する藍染。
「それはそれは。ホンマ、こういう中途半端な天気はいやですなあ。スッキリしませんわ。」

「・・・そうでもないよ。ほら、あそこに虹が出ている。」
藍染の指差す方向には、巨大な虹ができていた。
見事に色が分かれている。

「・・綺麗・・!!!」
思わずもっとよく見ようと、傘の下から飛び出す雛森。

「雛森くん!!傘を!!」
思わずイヅルが声を上げる。
「イヅル。行ってやり。可愛い女の子を風邪引かすわけにはあかんやろ。」
「はい。市丸隊長。」

二人の副隊長が虹を眺める姿を、藍染は穏やかに眺めている。
「・・綺麗だね。自然は時折思いがけない芸術を作るものだ。」
「そうですか?単なる光のプリズム現象ですやろ?」
「その通りだ。しかし、一つに見える日の光がこれだけの色彩に分かれるだなんて、面白いじゃないか。」
「そうですなあ。ほな、五番隊長さんはあの色の中でどの色が好きなんです?」
「そうだね・・。白かな。」

それを聞いたギンが少し驚いた顔をした後、にやりと笑う。
「あきまへんなあ。ご冗談は。白やあらしまへんやろ?ホンマに意地が悪いんやから。」
「・・君ほどではないと思うがね。
何色に見えるかは個人差もあるからね。別に不自然ではないよ。
・・君は何色が好きなんだい?」

「そやなあ・・。やっぱり藍色ですかな。」

今度は藍染のほうが笑う。
「お世辞も言えるようになったとは・・ずいぶん大人になったね。ギン。」
「そうですか?昔から得意やったけど。ああさむ。
ボク寒いん嫌いなんですわ。ほな先に行かせてもらいます。」

「ああ。吉良くん、すまなかったね。雛森くん、そろそろ行こうか。」
「はい。藍染隊長。」
藍染の傘の下に移る雛森。しかし、まだ虹を見ていたそうだ。

「虹は好きかい?」
「はい。」
「どの色が好きなのかな?」
「ええ・・と。橙でしょうか。なんだか元気が出てきます。藍染隊長はどの色がお好きなんですか?」
「僕かい?白だよ。」
白なんてあったかしら、と小首をかしげる雛森。
だが、そのことを藍染に聞こうとはしなかった。


「虹や見るん、久しぶりやったねえ。」
「そうですね。僕も久しぶりです。」
「イヅルは虹の中の何色が好き?」
「色ですか・・・緑かな。隊長は何色がお好きなんですか?」
「ボク?ボクは青かな。イヅルの目の色やし。」
「・・・からかわないでください。」


空には巨大な7色の虹。
虹が現れるのはほんの僅かな時間だ。
それぞれの色が分かれながらも1つにまとまっている。
やがては消える、僅かな時間。

それは今の彼らと似ていた。


なんちゃって。

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