表彰される者(浮竹・京楽・山じい)

評価委員会は紛糾していた。
最優秀者を誰にするのかで揉めていたのだ。
最終選考に残っているのは2名。
一人は浮竹十四郎。もう一人は京楽春水。
この二人は、学生の身でありながら、共同してヒュージホロウを倒したという快挙を達成した。
それまでの成績もほぼ互角だったため、最終的に一人に絞ることが困難だったからだ。

「やはり、浮竹ではありますまいか。素行も真面目。信頼も厚い。
今回は他の者を逃がすために、己の身を呈して、ヒュージホロウを足止めしたということもある。浮竹以外には考えられぬ。」

「いや、仲間を無事に先導した、京楽の方こそ最優秀にはふさわしい。
聞けば、戻る途中、出くわしたホロウを、仲間2人を抱えたまま鬼道を使って倒したとか。
ヒュージホロウを倒したのは京楽とて同じこと。それならば、1匹でも多くホロウを倒した京楽の方が表されるべきである。」

「何を言うか!
京楽のチームはヒュージホロウが出た段階で、みなパニックに陥ったというではないか。
人望ある浮竹が来て初めて落ち着きを取り戻したというぞ?
上に立つべきものは、下のものの信頼を得る者でなくてはならぬ!
浮竹こそ、表せられるべきなり!」

「そちらこそ、何を言われるか!
浮竹は肝心な時に肺の病を発病したというぞ?
そのような病弱な者に、最優秀とは片腹痛いわ!」

「・・・・・埒が明きませぬな。山本学院長は、護廷十三隊の用で暫くは帰られぬし・・・。一体どうしたものか。」

「学院長は、表彰者の選定は我らに一任されておる。お忙しいあの方を煩わせることはない!」

「しかし・・・。これでは一向にまとまらぬ・・。」

「では、基本的なところに立ち返りましょう。浮竹と京楽。もし我らがどちらかのチームで戦うとすれば、どちらを選ばれますかな?」

「人柄であれば浮竹ですな。」

「さよう。しかし・・確かにあの肺の病は、やっかいですな・・。今回はなんとか事なきを得てますが、いつ何時発病するとも知れぬし・・。」

「死神は常に、生死は隣り合わせ。健康の不安要素があるのは痛い。指導者ならなおさらだ。代々、席官を出している真央霊術院賞の受賞者の中で、持病を持った者がおらぬのは確かだ。」

「京楽はその点、安定しておる。人望が無いわけではないし・・・。」

「・・・・決まりですかな・・・。」

「浮竹・・・惜しいですな。あの病さえなければ・・。」

その日、京楽に内示が下る。
「最優秀者は、京楽。お主に決定した。」

それを聞いた京楽は、「浮竹は?」と尋ね、浮竹が選ばれないと知るや、選定会場となった会議室に直行した。

「失礼いたします。」
「おお、京楽か。このたびは見事だったな。受賞決定おめでとう。」
「浮竹は外れたそうですね。」
「そうじゃ。最後まで揉めたのじゃが、お前に最終的に決定した。よかったのう。」
「その件ですが、辞退いたします。」
「な、なに?今なんと言った?」
「ですから、辞退いたします、と申し上げているんで。」
「何を言うか!受賞者は、席官入りが決定しているも同然の名誉ある賞ぞ?!それを辞退するなど、正気の沙汰ではない!」
「正気の沙汰でない、で結構。辞退理由が出来ましたねえ。真に受賞すべき浮竹を差し置いて、受賞したところで、賞の意味なんてありませんので。じゃ、失礼しますよ?」
「ま、待て京楽!」
後も見ずに部屋を辞した京楽は、すたすたと帰っていった。

呆然とする、選定委員たち。最早山本の判断を仰ぐしかない。

学院に戻った山本を待ち受けていたのは、涙目になった選考委員たちだ。
事の次第を聞いた山本。
「ふむ。確かに真央霊術院賞の規定には、上位一名とある。おぬしたちは結局、どちらか一人という訳にはいかぬ、という訳じゃな?」
「さようで。」
「なら話は早い。真央霊術院賞は去年で終いじゃ。」
「は?」
「今年からは、山本賞を創設する。受賞者は最優秀者。その者が複数おる場合は、一人でなくてもよい。よって、受賞者は浮竹と京楽の両名なり。それでよかろう?」
「は、はあ。」
「最優秀者が、2名おる。それも甲乙つけがたし、なぞ、嬉しい限りではないか。遠慮なく、両名を祝ってやれ。」
「承知いたしました!!」


山本賞授賞式。壇上に並んだ浮竹と京楽に、注ぐ山本の眼差しは、これ以上なく暖かかった。



なんちゃって。


ちなみに・・・目録の中身は、学食1年分のタダ券だ。
これを見た浮竹は、京楽の襟を引っつかんで、学食に直行したそうである。


inserted by FC2 system