因果なる鎖(石田竜弦)

『片親の外見的性質を受け継いだ子は、その内面に関してはもう一方の親の内面的性質を受け継ぐ。』


・・・ずいぶん前から言われていることだ。

しかし、実証に足るだけの研究がなされているわけではない。

外見的性質を司るDNAとともに内面的性質を司るDNAもまた、今現在解析が進み、徐々に内外供にその親の独自の性質がDNAにより子に受け継がれていくことが分かってきている。


しかしながら、外見が片親に似れば、内面はもう片方の親に似ることになるかという科学的な実証はない。

実証のないものを私は信じない。
私は医者であり、総合病院の取り仕切る責任者でもある。
一介の迷信じみた説に惑わされるなど、愚の骨頂であるからだ。



ある日のことだ。
息子の雨竜がクインシーとしての能力を失った。

今は亡き父から中途半端な教えを受け、その未熟な状態のまま修行し、その上敵である死神と供に尸魂界に無謀にも乗り込み、その挙句に能力を失って帰ってきたのだ。

・・・あまりの馬鹿さ加減に、笑う気力も失せてくる。


死神などに関わるから、そんなことになるんだ。

・・・死神は敵だ。クインシーとは永遠に相容れない。
雨竜も重々分かっているはずだ。
それを・・・。

雨竜が私を頼ってくることは最初からお見通しだ。
理由は簡単だ。

・・・私を頼る以外に方法がないのだから。

そして、私は雨竜に二度と死神に関わらないことを条件に、その能力を戻してやることを約束した。

それも雨竜は飲まざるをえまい。

これから、空座町に起こるであろう戦いに自分が無力であることに雨竜が耐えられるはずがない。
たとえどのような条件であろうと、飲むだろう。


そして、私の『手術』が始まった。
クインシーとしての能力を取り戻すためには、肉体と精神を極限状況まで追い込んで、心臓のある一点に霊弓の矢を打ち込むという、『手術』が必要だ。

ついでに雨竜の現在の能力を確かめるという意味でも、私の弓から逃げ回らせた。

・・なるほど。
尸魂界に潜入し、一定の力は身につけてはいたようだ。

当初私が想定した『手術』にかかる時間よりも、雨竜は持ちこたえた。
ご丁寧に、銀筒まで用意するとは・・。

だが私もそうそう、付き合える時間があるわけではない。
より消耗を早めさせるため、挑発する。


・・そして・・。

『手術』は成功した。


『患者』は意識レベルにおいてはDといったところか・・。
注)レベルD→昏眠(Coma):痛み刺激に対して全く反応がしないレベル。


正直最後にこちらに攻撃を仕掛けてくることは計算外だった。
半ば成功させたことについては評価してやってもいい。
・・・しかし・・

「・・全く・・・何故あそこでハイゼンを使わないんだ。」

・・・あまい。

「あそこで使っていたのがグリッツではなくは以前だったなら・・・
私を倒すとまでは行かなくとも手傷くらいは負わせられたものを・・・」


そう。あまいのだ。詰めも何もかもがあまい。
雨竜は人を傷つけることを無意識のうちに避ける。
戦いにおいて、それは己の生命を脅かすものだ。

・・・現に私に一矢報いることも出来ず、レベルDになっている。

「・・・・だからお前は馬鹿だと言うんだ。

反吐が出る。」


・・・・意外だった。


私は雨竜に憎まれていたはずだ。

いくら私が実の父とは言え、自分の生命の危機に、敵に対してただの拘束する技を使ってくるとは思わなかった。
容赦なく攻撃してくると思っていた。

・・・だが、実際はそうではなかった。




・・・大きくなった。
思えば、1年近くその顔を見ていないことに気付く。
雨竜は、一人暮らしをするようになって、一度も家には帰っていない。
成長期の子供だ。
大きくなって当然か。

・・・思えば、寝顔を見るのは・・・

・・・・一体何年ぶりだろうか・・・。


・・・私らしくもないな。感傷にふけるなど。


「・・・だが、まあ・・・。

今日のところは見逃してやる。」



見下ろす顔は、年を追うごとに父である私に似てくるようだった。
自分が同じぐらいだったころを思い出して、気分が悪くなる。

これは外見的な形質遺伝だ。
皮肉なことに私のDNAの形質が強く出ている。

・・・望んでもないのに。


私を憎みつつも、傷つけることが出来ない。

その内面的性質は・・・どうやら母親に似たようだ。


肉体と精神を繋ぐ鎖は「因果の鎖」と呼ばれている。

だが、親と子もまた因果な鎖で繋がれている。

「因果の鎖」は断ち切れるが、親子の鎖は断ち切れない。


・・・存在する限り、断ち切れないのだ。


・・・幾ら親が望まなくても。


・・・幾ら子が望まなくとも。



まさしく「因果なる鎖」だな。





なんちゃって。

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