命の拍動(外科医、檜佐木修兵

・・ここは基幹病院BLEACH。

救急外来を主に担当している檜佐木修兵の勤務は過酷なものだ。
それを淡々とこなしているのは、本人の精神力と体力と仕事にかける情熱、その3つが揃っているからに他ならない。

その日も当直明けの通常勤務もこなし、連続勤務時間が32時間に近づいている。
だが、そんな勤務ももう終わった。次の医者に引き継ぎを済ませ、家に帰るべく私服に着替えようとしているときのことだった。
術衣を両腕を残して脱いだところに、看護師が慌てた様子で入ってきた。
「檜佐木先生!!まだいらっしゃいますか!?
・・・あ・・・!・・・・す・・すみません・・!!」

如何にも着換え中で上半身裸になった修兵を見て、若い看護師の頬が赤らむ。
見られた方の修兵はと言うと、そんな事はお構いなしに何時もの無愛想な態度で問いかける。
「何があった。」
「あの・・今・・交通事故で搬送されてきた患者さんがいらっしゃったんですけど・・。」
「梅定がいるだろう。」
「それが・・・・その・・・。」

言い淀む看護師の様子に、修兵はいったん脱ぎかけた術衣にまた頭を通し、大股でICUに向かう。後ろからは看護師が必死で追いかけながら患者の様子を伝えていた。
ICUは重苦しい緊迫した雰囲気が漂っていた。
修兵がつい先ほどいた場所とは思えぬくらいに。

帰った筈の修兵の姿に、皆一応に驚きつつも、ホッとした顔をする。
「どうだ、梅定。」
言いつつ、患者を見ると内臓破裂の可能性が高いにも関わらず、切開すらされていない。
「・・・何故切ってもねえんだ・・?」
「それが・・肋骨がもうぐちゃぐちゃで、工具で切れないんです・・・!
それにこの様子じゃもう・・・。」

「助からねえから、何もしねえってか?
バカか、てめえは!貸せ!!」

スポンジ状になってしまった、あばら骨。
内臓を傷つけないように、気をつけながらも大胆に切開していく。
内臓が先だ。肋骨は後で整形の阿散井にでも回せばいい。

一刻を争っていた。
心電図もギリギリだ。だが生きている。
患者が生きている限り、医者も可能性を見つけてあがく。
それが修兵の持論だった。

切開してみれば・・・確かに、内臓も傷ついているが、より深刻なのは心臓が潰れかかっていることだった。
横からは、梅定が、「ほら、言わんこっちゃない」とばかりの視線を投げている。
だが視線を投げられている修兵の方はと言うと・・必死で過去の症例、研究論文から解決法を引き出そうとしていた。
そして、5秒後には「バルーン持って来い!」と叫ぶ。
方法があるのだ!助ける可能性はある。勢いづくスタッフ。

そして、本格的な執刀に入ろうとしたその時・・・無情にも患者の心電図は動かなくなった。
「先生!心電図が!」
「くそ・・っ。」

直接心臓をマッサージするというかなり大胆な手法に出る。
「先生戻りました!」
反射的に心電図の画面を見る。いけるか?皆が思ったその時・・・

瞬間的に戻った心臓の動きはまた止まり・・・そして永遠に動かなくなった・・。

そこで、初めて修兵は患者の顔を見た。
奇跡的に無傷の顔。
まだ若い女だった。

そして、またICUは重苦しい雰囲気に包まれる。
梅定に任せてもいいのだが、その後の縫合から患者の関係者への説明も行った。
患者に庇われたという若い男は、修兵の報告を聞いて、ただただ嗚咽を漏らしていた。

修兵が私服に着替えた時には、勤務を開始して35時間が経過していた。
病院を出る際、修兵はどこかへ電話をかける。


「・・俺だ。部屋に来てくれ。今すぐにだ。

・・・ゴチャゴチャ煩せぇよ。


・・・・会いてえんだよ・・・今すぐに。」




電話を切るや、速攻でマルボロに火をつける。


・・・・煙草の煙が宵の空へと消えていった。





なんちゃって。


ええと・・・大変遅くなりましたが、瑠架さん4周年おめでとうございました・・。(過去形か!)
多分、お誕生日いじりは出来んような気がしますので、先にごめんなさいと言います。(爆笑)
あ、でもおまけつけるから!!←?



てわけで、おまけ。


鳴らされた部屋のベルに相手を確かめずにドアを開ける。
急な呼び出しに、理由を聞こうとする相手を、修兵はそのまま無言で抱き上げた。

両手に抱えられた相手はまだ靴さえ脱いでいない。
ヒールの靴が慌てたように上下する。
そんな事など、何でもないかのように、修兵は大股でリビングを横切り、奥の寝室へ直行する。

完璧に整えられた部屋。
マンションの上層に借りた部屋には寝に帰るだけの修兵だが、当直のある日は家政婦を入れて居住環境を整えている。

ポイとベッドに放り出し、その時に相手がまだ靴を履いていることに気づいたのだろう。
ポイポイと脱がせて放り出す。

上に乗り上げた修兵と眼が絡んだ相手は、修兵が改めていつもと違う事に気がついた。
僅かな汗のにおい。
獣のような光を放つ眼。

何時も手術の後は、水をかぶり平静になる修兵。
今日はそれすらせずに帰ってきたということだ。

「・・・何かあったの?」
手を伸ばし、頬を撫でる。
修兵はそれを許しながら表情を表さない顔で質問を返してきた。

「・・俺の傷が好きか・・?」
言われて、何時も顔の傷跡をたどる様に撫でていることに気が付く。
思わず手を引こうとしたところを止められる。
「・・・構わねえよ・・何なら爪でも立ててみるか?」

獣の光を放つ眼で射すくめられ、囁く声に煽られる。
一瞬、傷に添えられた爪先が動くが、傷から指先は離れ、悪魔のささやきを紡ぎだす修兵の唇に封をする。

再び絡む視線。
ふっと笑い合って緊張が弛む。

今度は修兵の唇が胸元に降りてきて、器用にも相手が着ていたシャツのボタンを二つほども外してしまう。
現れた左の胸に、軽く唇を押しつける。
何かを聞いているようだ。

「・・・やっぱ、生きてる音ってのは・・いいもんだな・・。」
ボソリとした呟きは、修兵の本心だ。
やはり、病院で何かあったのだと知った相手が、修兵の頭を優しく撫でた。

すると今度は、修兵が鼻先だけを掠めながら、鎖骨、首筋を上がり・・耳元へと上がってくる。

「・・・顔にはムリか。

・・仕方ねえな・・。じゃ・・・背中で我慢しといてやるよ。」


背筋がゾクリとするような声で囁いた。

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