一寸の光陰(日番谷冬獅郎)

・・・十番隊、隊首室。
その隊長席に一人の銀髪の少年が座っている。
外見年齢からすれば、十歳そこそこだ。

しかしながら、腕組みし、眉間に皺を深く刻み、口を引き絞りながら何事かを考えるその様は、外見とは似ても似つかぬ落ち着きだ。

言わずと知れた、十番隊隊長、日番谷冬獅郎である。

先遣隊として派遣されていた現世・空座町は冬獅郎の予想を遙かに超える事態となっていた。
相次いでの破面の襲来。
しかも、二度目の襲来はほぼ全てが十刃クラスだ。

崩玉の熟成を考えれば、本格的な襲来は12月と考えられていただけに、尺魂界に及ぼした動揺は大きなものだった。しかも、その襲来は、たった一人の人間の女、井上織姫を連れ去る目的だけの為だったと考えられている。

そして現世からの帰還命令。
それに従い、先発隊は尺魂界に戻ることになったのだ。

「はい、隊長。お茶です。」
珍しく気を利かせて副官の乱菊が茶を入れる。事の重大性にさしもの乱菊もこのごろは仕事をサボる事は無くなった。
「ああ。すまねえな。」思索の世界から冬獅郎が戻ってきた。湯呑に手を伸ばす冬獅郎を見て、乱菊が話しかける。

「・・一護、ちょっと可愛そうでしたね。仕方がないとは思いますけど。」
一口茶を啜り、チラリと乱菊に目をよこしたのは、少なからず冬獅郎も思う所があるからだろう。
「・・仕方ねえだろう。あれだけ破面どもの戦いの準備が整ってるって分かったんだ。いったん戦力を集中させるのは、常道だ。」
「だったら、一護も連れてくればいいじゃないですか。
なんせ、あの朽木隊長に勝った実力があるんだし。一人でも強い死神がいた方がいいんじゃありません?」
「バカか、てめえは。あいつは人間でしかも、尺魂界をあんだけ掻きまわした張本人だぞ?今でもあいつの事をよく思ってねえ死神はわんさといるんだ。
ただでさえ、藍染のことで動揺が広がっている所に、あいつを連れて来てみろ。隊の結束をより危うくするだけだ。

まあ・・・実際12月になりゃそれも分らねえがな。」

「もう〜〜、皆度胸が無いんだから〜〜。アレくらいのこと、水に直ぐ流しなさいっての。」
「バカ言え、皆が皆お前みたいなのばっかだってみろ。組織崩壊だ。」
「ところで何で織姫一人の為に、あいつら十刃ばっかで来たのかしら。ちょっと大げさすぎません?」

「・・そんだけ、現世に危機が迫ってるていう状況にして井上を引きずり出すつもりだったんだろうが・・・。最悪、藍染は捨て駒になってもいいと思ってる筈だ。井上を現世に引きずり出す目的の為にはな。」
「な・・!!十刃クラスを4体も・・?!」
「・・・あいつ等の代えは直ぐ作れる状態にあるってことだ。実際、NO.6とか言ってたルピってやつはアジューカスだ。確か同じ数字を今回も来てやがったグリムジョーが前回は名乗ってやがった。
つまりはアジューカスならすぐに代えが作れるってことだと考えていいだろう。しかもまだその上のヴァストローデはまだ分からねえしな。」
「・・・・あいつら、そんなに・・。」

「俺の『千年氷牢』でも、N0.6のルピを封じ込めるのがやっとだ。そんな奴をこの局面で出してこれるんだ。破面共の準備はすでに整ってると思っていいだろう。」
「・・・こっちも準備を早くしないと・・でもどうすれば・・。」
「それを今考えてるんだろうが。どうやったら縮まるのかをな。
さてと・・じゃ、俺はちょっと出かけてくる。お前は来なくていい。」

「どちらへ?」
「浮竹んところと・・涅んところだ。」
「科学技術局へ?」
マユリと冬獅郎がそりが合わないのを知っている乱菊は意外そうだ。
「ちょっと技術的に出来るかどうか聞きてえことがあってな。こんな時だ。合う合わねえと言ってる場合じゃねえだろ。」

乱菊の心中を読んだかのように冬獅郎が言う。
尚も心配そうな表情を隠せない乱菊に、扉の前で肩越しに尚も続けた。

「・・・心配するな。
こういう危機を何とかするために俺達隊長ってのが居るんだ。

・・・時間が無えのは確かだが・・・。
何も出来ねえわけじゃねえ。

・・それに・・どうやら俺は『最短記録』てのを作るのは得意らしいからな。」

思わず乱菊に笑みが漏れた。
そう、冬獅郎は最年少記録と最短記録をことごとく塗り替えてきたのだ。
小さな背中が頼もしく見える時であった。

『「光陰矢の如し」・・か。』
月日は矢のように早く過ぎていくという。その通りだ。冬獅郎は自分が何事にも全速で進んできたという自負がある。
その冬獅郎を持ってしても、来たるべき戦いへの時間は少ないものだった。

『・・・・まだだ。もっと歩みを速めねえと。』
月日が矢のようにすぎると言うならば、自分も歩みを速めて月日が過ぎ去る速度を遅くすればいい。

破面は強敵だ。それはよく分かっている。
だが、冬獅郎の眼は破面の先にある。

『藍染は絶対の優位と見て、さぞかし余裕をかましていることだろう。
僅かな時間で何が出来る、とでも思っているのか?
確かに時間は無ぇ。

だが・・・俺はこの一寸の光陰を・・・お前が思っている以上に使いきってみせる。

首を洗って、待っていろ。・・・・藍染・!!!』




回廊を歩む冬獅郎の足取りは迷いのない確かなものであった。





なんちゃって。

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