一枚の写真。(黒崎一護)

7月15日。
俺の誕生日だ。


けど、16にもなりゃ誕生日がいちいち嬉しい年でもねえし、ここ2,3年はケーキ食って終わりみてえなもんだ。
親父は無駄に大騒ぎをして、俺に蹴りを入れられる。

・・ま、それも別に毎日のことだから珍しくもねえか。

今年も、遊子や夏梨たちが用意したケーキを家族で突っついている時だった。

「一兄も16か〜〜〜。」
「お兄ちゃん、おめでとう。」
そんな会話の中で、夏梨がひょんなことを言い始めた。

「そういや・・アタシ一兄の小さいときの写真て見たことないような・・。」
「あ、私も!!お父さん、お兄ちゃんが赤ちゃんだったときの写真てあるの?」

「おお!!あるぞ!見たいか?」
「見たい、見たい!!」
「・・ちっ。よせよ、親父。
そんなん見ても楽しくともなんともねえだろうが。」

嫌そうな俺の態度に、親父が尚もつけ上がる。

「フフフ・・一護よ。そんなに恥ずかしいか・・。
それでは見せてやろう・・。お前の過去の恥ずかしい姿を!!

赤面無しでは見られぬお前の・・ぶおっ!!」

「だから、止めろっつってんだろうが!!」

「一兄、邪魔しないでよ!!」
「お兄ちゃん、お願い!!」

「・・・・。」


・・そんなこんなで、俺の小さい時のアルバムが引っ張り出されることとなった。
小さい時といっても、赤ん坊のときからの物だ。

16年の月日が流れたアルバムは、俺自身、ほとんど記憶がない。

開かれた最初のページには、生まれたばかりの俺と、母さんと、親父が写っていた。

「うわあ〜〜!!お兄ちゃん小さい!!」
遊子が感激したように、歓声をあげる。

「・・へえ。一兄ってこの頃から、髪結構生えてたんだね〜〜。
アタシ生まれたばっかりの赤ちゃんて、みんな髪ほとんど生えてないのかと思った。」
夏梨が見る先には、オレンジの産毛を生やした俺の頭がある。

「ふふふ。なんだかお兄ちゃんを抱っこしたお父さん・・なんか手つきへんじゃない?」
「・・・あ、ホントだ。
親父、小児科もやってんだろ?なんだよ、この危なっかしい感じは。」
「そ、そりゃお前、俺だって小児科が専科ってな訳じゃねえし・・。

1歳未満で新生児なんざ、あんまり診たことなかったからな・・。

特に新生児なんぞ、グニャグニャなんだぞ?首が後ろに90度ふよって倒れるんだぞ!!?」
「倒すなよ、ヒゲ。」

病院で撮られたと思われるその写真には、俺をいかにも慣れてねえ手つきで抱く親父と、それをほほえましそうに見る母さんの姿がある。


・・・普通の写真だ。

・・・ただ・・俺の髪がオレンジという以外は。

『やっぱ、生まれたときからオレンジだったんだな・・。』

思わず苦笑がもれた。


「ねえ、母さん。なんで俺の髪ってオレンジなの?
他の友達と違うの?」

昔俺は何度も、こんな質問を母さんにしていたと思う。

「ふふふ。それはね?神様があなたに、あったかい心になって欲しいって、特別にプレゼントしてくれたのよ?」
何度も母さんは、優しく答えてくれていたと思う。
「・・でも、俺、普通の髪がよかった。黒いのがよかったよ。」
「そう?でもお母さんは、一護のその髪の色、大好きよ?

なんだか元気が出てくるわ。一護、いつも母さんに元気をくれてありがとう。」


「・・・。」
そう言われると、俺もそれ以上のことは言えなかった。
こうも言っていた。

「・・・ねえ、一護。生きている物全ての色や形は、そうなる意味があると母さんは思うの。

例えば、あのツバメの翼は、より速く、そして遠くを飛べるようになっているのよ?
でも、あの翼の形はツバメにしか似合わないの。
他の鳥には、似合わないのよ?他の鳥が同じような翼を持ってみても、ツバメのようには飛べないわ。

道端に生えてる草もそう。
あまり土のない、そして踏まれても枯れないように、丈夫な作りになってるわ。

毒を持つ生き物が、派手な色をしているのは、毒があるから食べれないよ、て言う為ですって。


だから、一護の髪の色も、きっと意味があると思うわ。
あなたしか出来ない、何かを表しているのかもしれないわね。
今は分からなくても、きっとその意味が分かる時が来ると思うわ。」


「この髪の意味・・?」

その時の俺には未だよく分からない言葉だった。
そんな俺に母さんは続けてこう言った。

「・・・でもね?母さんは何でもいいの。
神様が一護を母さんに授けてくれたんですもの。

それ以上の喜びなんてないわ?一護がいてくれることが、母さんには幸せなのよ?」


母さんは俺を隠さなかった。
何処にでも連れて行った。
そして何処かで必ず、こう聞かれていた。


「あら、・・・息子さん、髪を染めてらっしゃるの?」


母さんはこう言っていた。


「いいえ?地毛です。ステキでしょ?」



そう言う母さんの背は何時もしゃんと伸びていた。


『・・・あなたは何も恥ずかしいことはないのよ?
自信を持ちなさい。』


それは、明確な母さんのメッセージだったと俺は思う。


写真を見入る俺に、親父はこういった。
「・・一護。これをお前にやろう。誕生日の祝いだ。」
アルバムから、写真を外そうとする親父に俺はこういった。

「・・いらねえよ。それはアンタが持っていた方がいい。」
「・・?いいのか?」

「・・ああ。俺は母さんに命を貰ってっからな。だから・・・写真はいらねえ。」


そう言った俺に、家族の視線が集まる。
皆何故か優しい目をしていた。


「・・そうか・・・。
安心したぞ。なんせ、お前と父さんは母さんのおっぱいを一時期争った仲だからな!!
ちょうどこの頃は、父さんが全敗を喫していた頃だ!!

おのれ、一護め!!赤ん坊とはいえ、母さんのおっぱいを独占するとは!!と思っていたあの甘酸っぱい思い出!!

やはりこの父さんの手元に置き、この頃のお前に文句を垂れるのが最もふさわしい・・バブッ!!」
「やかましい!!」


そんなこんなで、俺の初めての写真は、親父が今も保管している。

使われ方は納得いかねえが・・・。


あれは親父が持つべきだと思う。

・・なんでかはよくわかんねえけどよ・・。
親父が持っていた方がいいような気がする。
・・俺の生まれる前から知っている親父が持っているほうが・・・・。





なんちゃって。

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