『一護』の由来 (黒崎一心)

「おい、親父。
なんか中学の道徳の宿題で、自分の名前をなんで親がつけたのか、聞いて来いっていうのがあるんだけどよ。
俺、なんで「一護」になったんだ?」

恐らく、世の親たるものが一度は聞かれる質問を、俺も受けるはめたなったわけだ。
『とてもいい名前ね、あなた。でもどうして一護なの?』
・・・そういや、真咲も同じことを聞いていたな。


・・・俺は、ある事を理由に『死神』から『人間』になった。
人間になるために義骸に入り、一切の霊力を封印した。
そして医者として、完全に人間として暮らしていた。

嫁さんをとるつもりなんてなかった。
俺は、元々は死神だし1人の女に惚れこむなんて考えられなかったからだ。
だが、予想外のことが起きた。
どうにもこうにも、真咲に惚れちまった。
そして嫁さんにしちまった。

そして、子供が出来たと嬉しそうに真咲が俺に報告した時、・・・俺はみっともなくも戦慄を覚えた。
死神と人間の子。
当然、禁忌だ。許されることじゃねえ。
しかも真咲は俺の本当のことを知らない。

・・・真咲は嬉しそうだった。
・・・本当に嬉しそうだった。
そして、俺も真咲との子が欲しかった。

そのとき俺は心を決めた。
死神であることを捨てよう、と。

禁忌の子。
果たして無事に育つのか。
俺の心配をよそに、真咲から受ける腹の中の子の成長は実に順調のようだった。

そして、妊娠10ヶ月目。
真咲に陣痛が来た。
俺も医者だ。専門外だが知識はある。
だが、陣痛室に入ることを真咲に止められた。

「私は今から赤ちゃんを産むわ。それが私の母親としての最初の仕事。
だから、あなたはその間、赤ちゃんの名前を考えてあげて。それがあなたの父親としての最初の仕事よ?」

真咲は赤ん坊が男か女かは聞かなかったらしい。
どんな名前がいいか、あれこれ楽しそうに話していたのに、完全に俺に任せてくるとは思わなかった。

それから、22時間。
赤ん坊が生まれるまで、真咲は全く声を上げずに耐えたそうだ。
後から聞いたことだが、陣痛が激しく、胃の中が空っぽになるまで吐いたという。
それでも、赤ん坊の産声を聞くまでは、一言も喋らなかったそうだ。

無事生まれた赤ん坊を見て、俺は愕然とした。
オレンジ色の髪。自然界にはありえない髪の色。

・・禁忌のせいか!!

言葉を失った俺を見て、真咲が微笑みながら語りかけた。
「元気な男の子でしょ?見て?こんなに素敵な髪をしているわ。なんて暖かい色なのかしら。」

出産直後は誰しも情緒が不安定になるものだ。
それはホルモンの急激な変動によるもので、仕方が無い。
自然界にありえない髪の色をしているのだ。
衝撃がない筈がない。

しかし、真咲はそんな中でも赤ん坊を護っていた。

・・・かなわねえな。

「ねえ、父親の最初の仕事は?名前考えてくれた?」

「一護だ。黒崎一護。」
「とてもいい名前ね、あなた。でもどうして『一護』なの?」
「一つのことを護り通せる男になってほしい。だからだ。」
「あら、あなたの名前から取ったのかと思ったわ。でもたくさんじゃなくて一つだなんて、あなたにしては珍しいわね。」

「一も護れないような奴に、多くのことは護れねえからな。
みんな最初は一から始まるもんだ。
だから一ってのは大事なのさ。」

「・・素敵ね。一護?あなたはこれから一護よ?よろしくね?」

・・・・本当は真咲からつけた。
一人の子供を護り抜こうとする姿。固い決意。
『一護』は真咲、お前からつけたんだ。


・・・そして、真咲は一護を護るために命を落とした。
最後まで、俺のことも、なぜ一護が普通の子と違うのか、知らずに。
『一』を最後まで護りやがった。

・・・かなわねえ。



「おい!!聞いてるのか?親父!!あご割るぞ?!!コラア!!」

俺の息子は出来た奴だ。
何故、自分が普通と違うのか、俺に聞いたことは一度もない。
受け入れながらも、常に自分と戦っている。

「ふふふ。知りたいか!!では教えてやろう!!『一』の字は当然この父、一心から取った!!何だその顔は!!もっと素直に嬉しそうにパパの胸へ飛び込んでもいいぞ?!!護るの字はちょっと届出の際に間違えてな〜〜。」
「何だよ、それ。何と間違えたんだよ。」

「いやあ〜〜、俺は女の子だと確信してたんだけどよ〜〜、野郎だったもんで、間違っちまったっていう意味で『誤』にするつもりだったんだ〜〜。
それが、役所の届出でさらに間違っちゃってさ〜〜。『護』になっちゃったんだよな〜〜。後から訂正きかないっていうし〜〜。ま、いいかな?ってそのままに・・・・ぐおっ」

「てめえ〜〜、殺す!!」


お前は『一』を護れる男になれ。

・・・出来るさ。
お前はあの真咲が生んで、あの真咲が命に代えても護った男なんだぜ?

・・・俺はお前を見守ってやる。
・・・真咲の分まで。

それが俺の親父としての仕事だからな。

なんちゃって。



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