開花宣言(吉良イヅル)
暖かな春の夜だった。
桜の木の下で、宴が開かれている。
3月27日。副隊長が集い、花見を開く日だ。
花見といっても、桜を見れば、まだ花は7輪ほどしか開いていない。今にも咲きそうな蕾ばかりが枝を覆っていた。
「今年は思ったより、桜の咲くのが遅れたわねえ〜〜。あ、他の連中は?」
桜を見上げて、言うのは十番隊の松本乱菊。
「暖冬だから、もっと咲くと思ったんスけどねえ。他の人たちはちょっと遅れるみたいっス。あ、コレ食います?」
「うん。」
今日もきびきびと幹事の役をこなしているのは、九番隊の檜佐木修兵だ。
「あんまり暖冬だと、桜の花って咲かないもんなんスねえ。」
言いつつ、そう気にしていないのは六番隊の阿散井恋次だ。
「キラりんのせいだ!!」
「僕のせいなんですか?!」
「キラりんが気合をいれないからだよ、きっと!」
「イヤ・・そんなので桜が咲くとは思えないんですが・・。」
三番隊の吉良イヅルに、難癖をつけているのはお祭り大好きの十一番隊の草鹿やちるである。
どう見ても、やちるの方が子供に見えるが、一応イヅルはやちるに丁寧な言葉を使う。
何故なら、やちるのほうが、副隊長になった時期が早いからだ。
礼儀に厳しい、彼ならではといったところだろう。
一方のやちるは、相手が誰だろうが、お構いナシだ。
相手が、例え隊長だろうとも、それは変わらない。
恐らく、やちるの思考経路は、一生イヅルには理解できないだろう。
「いいや!キラりんのせいだかんね!!」
今も、やちるは、自分しか理解できない論理でイヅルを攻め立てている。
「今日はキラりんの誕生日なんだから、キラりんがお願いすれば、桜だってもっと咲いたんだもん!」
・・そう、3月27日・・この日はイヅルの誕生日なのである。
「へえ、イヅルって3月27日が誕生日なんや。
それで、名前がイヅルになったんやろうなあ。」
・・過去にイヅルが上司に言われた事だ。
今、その上司は尺魂界の何処にも居ない。
・・何故なら、ある日突然、大逆の徒となり、虚圏へ渡ってしまったからだ。
「3月27日で、イヅルですか?」
「3月の終わりいうたら、桜が咲き始める頃やろ?
桜の花が出づるで、イヅル。
どうや?それらしいやろ?」
「そうでしょうか。聞いた事がないので、良くは分からないのですが。」
「たぶん、桜と関係してると思うけど。
なんせ桜の花は特別やからなあ。」
「はあ。」
「はあ、やないよ。
桜は別れと出会いを彩る花や。
桜の花が出づる頃に、新たな出会いや人生が出づる。」
「そう・・ですねえ。」
「嬉しないんか?
イヅルは保守的なところがあるからなァ。
新たな出会いより、今までの付き合い大事にしたいタイプやしなァ。」
イヅルの上司だった男は、彼の性格をよく理解していた。
そして、続けてこういった。
「でも、どうせやったら、「出ん」より「出た」ほうがええやん。」
『まあ、それはそうかも』、と思えるような内容だった。
「キラりん!!聞いてる?!!」
「え?ああ。聞いてますよ。」
過去の記憶をふとした時に思い出す癖が、どうやらイヅルについてしまったようだ。
この日は、イヅルの希望とは関係なく、副隊長の集まる日となってしまっていた。
無論、副隊長は多忙なため、来れる者のみの参加ではあるのだが。
今年は事前予想よりも、開花は遅れていた。
予想外の展開。予想外の事象。
それは、気象のみにとどまらない。
それでも彼らはそれと立ち向かわねばならないのである。
それが、どんなに辛くともだ。
辛い時期を乗り越えて、初めて桜も花を咲かせる。
昨日は、まだ桜の花は開いてはいなかった。
今日初めてその花を開いたのだ。
未だ尺魂界は悲劇から完全に立ち直ったとはいえない。
けれども、必ずまた花を咲かせる時が来る。
『僕はその花を咲かせる礎となろう。』
今年はイヅルの誕生日に桜の開花宣言となった。
いつか、尺魂界にも開花宣言がなされる時を信じて。
「遅くなってごめんなさい。京楽隊長が戻ってらっしゃるのが遅くなってしまって。」
「なんだ、まだぜんぜん集まってねえじゃねえか。折角、砕蜂隊長に睨まれながら抜けて来たってのによ。」
忙しい中にも集まってくる仲間たち・・。
この仲間たちと共に戦って行こう。
『でも、どうせやったら、「出ん」より「出た」ほうがええやん。』
・・・そうですね、どうせなら、出した方がいい。
・・・尺魂界に開花宣言を。
そして・・・僕たちで新たな尺魂界を作っていこう。
・・・・・新しい時代を・・・。
「あ、忘れてた!!キラりん、お誕生日おめでとう〜〜!!」
そして、宴は始まった。