汗血馬(白崎一護)

『・・・もう2000年以上前の事だ・・・。

当時中国を治めていた前漢の国力を最大にした皇帝を、武帝と言う。

そして、その頃自らの権力および力を誇示するものとして、名馬を持つことが権力者たちのステータスであった。

・・・名馬は己の強さの証であったのである。

そして武帝は自らの力の証として、ある馬を捜し求めていた・・。

その馬は1日に千里(500キロ)を走ることが出来ると言われ、「血のような汗を流して走る馬」ということから「汗血馬」と呼ばれていた。

馬を得るために戦争まで起こした武帝・・・。


それほどまでに「馬」は「その背に乗る者の力」と同一視されていたのである・・・。』



・・・はっ・・くだらねえ。

いい騎馬だからって、その背に乗ってりゃ誰でも王になれるってか?

・・・甘ぇ事言ってんじゃねえよ。
冗談じゃねえ。
何で自分より弱ぇェ奴を、自分の背に乗っけて騎馬が走らねえといけねえんだ?

弱ぇエ奴は振り落としてやる。地面に叩き落し、頭蓋を踏み潰し・・・そして・・俺が王になってやる。

俺は一護の斬魄刀だ。
別に不思議じゃねえだろ?もともと斬魄刀は持ってる奴の霊力そのものだ。
つまり、持ってる奴の一部ってわけだ。
俺と斬月は元々一つでありながら、ひょんなことで分かれちまった。
残月はいわば一護の理性そのもの、そんで俺はあいつの心の奥底の本能ってやつだ。

と言っても、同じ斬魄刀を共有してるんだ。根っこの所では俺と斬月は繋がっている。
最初のほうは俺は残月の一部だった。

しかし、一護が戦えば戦うほど、力を求めれば求めるほど俺と残月の力関係は変わっていった。
何故か分かるか?

理性で戦いなんて出来ねえからだ。理性で強くなんかなれねえんだよ。
一護が強くなりたいと強く思えば思うほど、俺の力は増大した。
そして、終いには斬月のほうが俺の一部となった。

けど、一護のほうはと言うと、何時までたっても相変わらず斬月の方に頼り切ってやがる。
斬月がてめえを強くするこたあ、もう出来ねえって何で分からねえんだ?
理性で強くなる範囲を、もうてめえはとっくの昔に超えてんだよ。

残月を「屈服」させて卍解を会得したつもりか?
それで、全部の力を使えると思ってんのか?

温ィこと言ってんじゃねえ。
「俺」はてめえに「屈服」なんてしてねえぜ?

・・・てめえの戦い方は温ィんだよ。
そんなんで強くなれると思ってんのか?
何が理性だ。そんなもんは馬の糞以下だぜ。
そんなもんを持ってるからてめえはそれ以上強くはなれねえんだ。


・・俺は御免だ。
俺を制御も出来ねえ奴を背に乗っけて走るなんざな。
勝てる相手に、てめえがくだらねえ理性のせいで負けんのも、その付き合いを俺がしなきゃなんねえのもな。

俺がこの程度の走りで満足できると思ってんのか?
俺がこの程度の強さで満足できると思ってんのか?

冗談じゃねえ。

本能を隠して戦おうなんて奴を背に乗せられるか。
我慢できねえんだよ。

・・よこしな一護、てめえの体を。俺が代わりに戦ってやる。

弱ぇェてめえの代わりに、戦い方ってやつを教えてやる。
てめえはその背に俺を乗っけて走ってりゃいいんだよ。
本当の戦いってやつを騎馬になって見てりゃいい。

戦いは殺すことだ。
何、気取ってんだ?相手が死なねえ限り、勝った内には入らねえんだよ。
殺せよ、一護。それが俺たちの原初の階層の本能だろ?

戦う相手の息を止め、皮膚を破り、血をすすり、肉を食らえ。

そして、その味に歓喜しろよ。
その旨さが分かりゃあ、直ぐに次の戦いが欲しくなるはずだ。

もっと戦いを求めろよ。もっと力を求めろよ。

それが出来ねえ限りお前はそれ以上強くはなれねえ。

戦いに歓喜し、敵を斬る喜びに打ち震えろ。


・・・・それが出来なきゃ・・・



<てめえが俺の騎馬になりな>


・・・大人しくやられるかと思ってたんだが・・・。
返事は凄まじい「黒」の侵食だった。


・・くそっ・・。
どうやら・・少しはてめえにの残ってやがったみてえだな・・・。
『戦いを求める本能』ってやつが。


取り敢えずは認めてやるぜ。
てめえが、俺の『王』だってな。
だが、あくまで取り合えずだ。
これで、俺を乗りこなせると思ったら大間違いだぜ?

俺はお前の強さの分だけ、この背にお前を乗せてやる。
俺の背に乗ることの出来る時間がお前の強さってわけだ。


俺の背に乗って戦いたきゃ、乗りこなせるよう強くなりな。


俺は取り敢えず、てめえの前から姿を消す。
次にてめえの前に現れる時は・・・てめえが本当に俺の力を支配するその時だ。

・・その時まで・・・せいぜい死なねえように気をつけな。


言っとくが、姿を消しても俺はお前と共にある。
俺を乗りこなせねえと思ったときは、てめえを容赦なく振り落として、踏み砕いてやる。


・・・あれから一ヶ月か。

一護が俺の上に乗れる時間は十一秒。

たりめえだ。そんな温ィ修行じゃ何時までたっても時間は伸びねえぜ?


戦えよ、一護。
俺に乗る時間を増やしたきゃ、戦って敵を斬りな。
てめえがその本能を開放すれば、開放するほど俺に長く乗れるようになるぜ?

俺はいい騎馬になってやる。
てめえの「汗血馬」とやらになってやるよ。

だが、俺は血の汗なんか流さねえぜ?
俺の体を流れるのは敵の血だ。

ああ。それとてめえの血もな。


戦えよ、王よ。
本能のまま戦いな。


俺は・・そういう王の下で初めて千里を駆ける騎馬となる。



俺を完全に乗りこなせるのは、戦いの王だけだぜ?



・・なあ、一護?









なんちゃって。

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