空座第一高等学校1年3組の2月14日

・・・・2月14日・・・。
普段どおりな筈の教室に、独特な緊張感が漂う日だ。

女生徒も一部には緊張感を持つ者も居るが、それは男子生徒の比ではない。
和やかに友達と話しているように見えるが、その意識は女生徒たちの一挙手一投足に集中している。

・・・彼らは理性では判っている。

・・・望む物が手に入らぬ確率が高い事を。

・・・己が、それを手に入れられるほど、世の中が甘くない事を。


・・・だが・・・希求の念を捨て去れない。



彼らが望むものは只一つ。

女生徒からの「愛のチョコレート」である。

いや、この際「愛の」が枕詞に付かなくてもいい。
とにかく男は実績あるのみ。
どんな意味であれ、貰えば男は勝者になる。

「だから頼む、誰か俺に愛の手を。」

そんな口に出せぬ、心の叫びが教室内を木霊しているのである。


・・・しかし、その叫びは大概は女生徒に届く事は無いのだが・・。←爆笑


3組内で一番平静を保つのは石田雨竜。

テストの成績で1番を譲った事が無い秀才だ。
おまけに、線は少し細いが眉目秀麗。
少々皮肉屋の所も、メガネの甲斐もあり、クールとして受け止められる。

学生にとって何より目立つのは本業であるテストの結果だ。
普段はあまり目立たぬ彼も、結果発表の時は神となる。
無論、雨竜は人気があった。

「・・あの・・石田君・・これ・・よかったら・・。」
今ので、何人目なのか定かでは無いが、女生徒がチョコを持ってやってきた。
顔色一つ変えぬ雨竜。
「すまないが、君の気持ちにはこたえられない。だから、それは貰えないな。」

ありがち。(爆笑)

「そ・そんなんじゃないの!!貰ってくれるだけでいいの!!だから貰って?!」
必死の願いに、メガネのブリッジをクイと上げる雨竜。
「そういうことなら、頂くよ。ありがとう。」

・・・・最初にバッサリ斬っておきながら、あっさり貰うところは、流石はツンデレと拍手したい所である。(笑)


無論、律儀な雨竜の事だ。ホワイトデーにはきっちりとお返しがある。その際、手縫いのティッシュケースやマスコットが付くため、好評だ。
そんな、雨竜に間違っても送ってはならぬものがある。
手縫いの物だ。
なんせ、男にして手芸部部長だ。滅却師のごとき高い誇りを持っている。
なまじなものを送ってしまえば、縫い方を添削され返却される確率は高い。


チャドも一護もいい男なのだが、いかんせん目つきが悪かったり、喧嘩をヤンキーどもから吹っかけられまくったり、外見がちょっと怖かったりするので、未だ貰ってはいないようだ。

いや・・一護には渡そうとする女生徒が居た。

・・井上織姫。
手に持つのは、昨日徹夜で仕上げた手作りのチョコレートだ。
思い切って声をかけようとしたその時・・・!!!

「織姫・・・・!!!

ありがとう!!それ、あたしのためでしょ?!!!」

感動の叫びを上げるのはジェノサイド千鶴。←何時からそんなリングネームに??
無論、織姫は千鶴のために作った訳ではない。

千鶴もそれは承知の上だ。

しかし判っていながらも、承服できぬ事は在る。
『こんな可愛くて、性格がよくて、おっぱいの大きい子、そうそう男に渡せるかい!!

織姫の心はこのあたしが頂く!!
クインシーこのあたしの誇りにかけて!!!』

「あ・・えと・・千鶴ちゃん・・その・・。」
「あたしのよね?!!←止め。」
「う・・うん・」
「やっぱり!!!←勝利のガッツポーズ炸裂。(心の中)
ありがとう!!頂くわ〜〜!!」


ちなみに、織姫作のチョコ・・。
イチゴのゼリービーンズを餡子でくるみ、その上からチョコレートコーティングしたというシロモノだ。
少なくともオイラは食いたくない。←イヤ、アンタの事聞いて無いし。

かくして、一護は学校内で貰えるチャンスを失い、家において双子の妹からチョコを貰うのみとなる。

・・一方・・・。
「うっうっ・・水色・・・。
俺たちに、チョコは貰えなかったな・・・。

ちくしょうーーー!!
こうなったらヤケだ!!一緒にカラオケでも行こうぜーー!!
俺について来い!!水色ーーー!!!」

放課後には、号泣の啓吾が。
「あ、ゴメン。ボクこれから、待ち合わせだから。ええと、4時だったな。
ゴメンね、啓吾、今日ボク忙しくて。
15人と会わなきゃなんなくてさ。じゃ、ボク急ぐから。じゃあね?」


「嗚呼〜〜!!お前まで〜〜〜〜!
お前まで俺を裏切るのか〜〜〜〜!!
ていうか、15人てどういうことだよ〜〜!!
またキレイなお姉さんにナニ取られまくりかよ〜〜!

頼むから一人ぐらい譲ってくれよ〜〜!」


校門に響く虚しい叫びは、虚の叫びにも似たり。



そして、バレンタインデーは過ぎていく。




なんちゃって。


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