かりそめの絆(朽木白哉)
・・・私には妹がいる。
正確に言えば、亡き妻の妹だ。
妻の遺言に従い、探し出し・・・そして私の妹とした・・・。
他に家族はおらぬ。
皆鬼籍に入ってしまった。
・・・・私のただ一人の家族と呼べる存在。
それが・・・ルキアなのだ。
私はそのただ一人の家族を見殺しにしようとした。
掟を護る事のみに囚われ、真に護るべきものを見失っていた。
・・・危ういところだった。
だが・・・黒崎一護の働きにより、一応は事無きを得た。
・・・あの男には感謝している。
あの日から、私とルキアの間で変わったことがある。
屋敷に二人ともいる場合は、食事を共にすることとした。
それまで、同じ食卓を囲んだことなどない。
だが、一護にそれはあまりにも不自然と言われたのだ。
我等貴族にとって、食事は独りでするというのが常識だ。
家族が共に食事をするというのは、宴席においてのみ。
当然、他の家の者もいるため、会話の内容も注意を払わねばならぬ。
それが・・・我等の常識だった。
私と食事を取るルキアは明らかに緊張している。
何か会話をしなければならないと思っているようだった。
もっとも・・・私の前ではいつも緊張しているようだが・・・。
「・・・あの男は今どうしている・・。」
私が話を振ると、ルキアは一護が通う『高校』という所の話を、目を輝かせて話し始めた。
『制服』という衣服について。学ぶ内容。食べ物のこと。
ルキアが現世で過ごした期間は数ヶ月だ。
だが、ルキアにとって有意義な時間であったのだろう。
私は・・・ルキアがこんなにも楽しそうに話す姿を・・・今初めて見ている。
「・・・また現世に行くことになったそうだな。」
「はい。今度の火曜に発つことになります。」
「そうか。」
死神とは常に死と隣りあわせだ。
そして決して死を恐れてはならぬ。
妻とは、ルキアを護るという約束を私は交わしている。
真にこの約束を果たそうとするならば、死神を辞めさせるべきなのやもしれぬ。
だが、それはルキアの意思に反するだろう。
妹は死神という仕事に誇りを持っている。
それを私が奪うことは許されない。
上位席官にならぬよう、話をつける位のものだ。
・・・ルキア。
死神を辞めろとは言わぬ。
だが・・生きて帰ってくるのだ。
・・・忘れてはならぬ。お前は私のただ一人の遺された家族だということを。
いつか・・・お前も年頃になれば、この家を出て行くこともあるだろう。
私はそれを見送らねばならぬ。
・・それは私も覚悟をしている。
だが、生きている限りはお前は私の妹なのだ。
それをなしているのは、戸籍の繋がりだ。
私とルキアに血の繋がりはない。
ただ・・・戸籍という書物に書かれた文字だけが、私とルキアをつないでいる。
まさしく、仮りそめの絆だ。
ただ・・・その仮りそめの絆のみが・・・今の私に家族を与えているのだ。
「よく勤めを果たすように。」
そして・・・必ず帰ってくるのだ。
・・・この屋敷に。
・・・よいな、ルキア。
「はい!兄様!!」
・・・・妹が嫁ぐ男はどんな男なのだろうか。
何故か頭の中をオレンジ頭と赤い頭の男がよぎり、一人憮然とする兄がいた。
・・・ルキア。
・・・忘れてはならぬ。
・・・お前は・・この私のただ一人の遺された家族だということを。
なんちゃって。