形成外科医、涅マユリ
・・・巨大基幹病院、BLEACH。
ゴッドハンドと言われるような医師ばかりが揃うこの病院だが、ひときわ異彩を放つ診療科目がある。
形成外科だ。
形成外科とは、難しく言えば頭蓋、顔面、四肢はもとより、身体全般にわたる体表面とこれに近い組織、器官の先天異常をはじめとし、外傷、熱傷、腫瘍などの後天的疾患に対して、形態的のみならず機能的な修復再建を行っている診療科だ。
易しく言えば、何らかの理由で外見的に負ってしまったハンデを、手術によって綺麗にするという科なのである。
たとえば大やけどで顔にケロイドが出来てしまった患者に皮膚を移植して、目立たなくさせるというようなものだ。
整形外科と間違えそうだが、整形外科は手足の筋肉、骨・関節と脊椎(背骨)の病気・外傷を扱う専門・・・つまりは関節が外れたり、単なる骨折の場合には整形外科で、形成外科は専門外ということになる。
それでは、形成外科におけるゴッドハンドを紹介しよう。
彼の名は涅マユリ。
一目彼を見たものは、恐らく生涯忘れることは出来ぬであろう。
奇怪なヘッドギア。真っ黒に塗りたくった顔。耳とあごには怪しげな物が装着されていて、何の為にあるのか、誰もわからないという。
でもちゃんと白衣は着ている。←(笑)
この医師自身にまず形成の手術が必要なのでは・・と思う患者は数多いが、口に出す勇気は誰も無い。
奇怪な出で立ちにも関わらず、マユリに執刀してもらいたくて受診する患者は数多い。
・・何故か・・。
奇形を正常に戻すというのが、形成外科の仕事だが、彼の仕事は奇形を美形に変えてしまうのである。
それまでコンプレックスの塊だった部分が、人に褒められる部分として生まれ変わるのだ。
患者の口コミにより、特に奇形とは考えられぬ患者においても、美しさを求めて受診するのだ。
マユリの患者に対する態度は、お世辞にも良いとはいえない。
診察室からは今日も、患者に高圧的に物を言う声が聞こえてくる。
「何だネ!?君は!
豊胸だと?!ここは形成外科であって、美容整形外科では無いのだヨ!
君の乳房は外見的に問題はないヨ!
私は忙しいんだヨ!君の自己満足に付き合っている暇は無いんだがネ!!」
いきなりの剣幕にうなだれる患者。
「すいません・・・。先生が素晴らしい腕をお持ちと聞いていたものですから・・・。」
「フン・・だが・・・。
どうしてもと言うならば、やらないことはないけどネ。」
・・・マユリはおだてに弱い。
その辺のことも既に口コミで広まっているようだ。
「・・で?
入れるシリコンはどれにするかネ?」
ちなみに、すかさず机から何種類ものパンフレットが出てくることでも有名だった。
胸に入れるシリコンだけでも10種類。
研究熱心なマユリは出したパンフレットの製品は全て試験済みで、違いも全て暗唱出来る。
「・・えっと・・よく分からないんですが・・・。」
「・・そうだネ・・・予算にもよるのだがネ。詳しいことはネムから説明を受けるといいヨ。
後はどれくらいの大きさにしたいかにもよるがネ。」
「ええと・・Bカップくらいに・・。」
「君は私をバカにしているのかネ!!Bカップだと?!!そんなものを希望するなら、わざわざ私がやる必要などないヨ!最低でもCだ!イヤ、君は背が高いからDだネ!
でなければ、私はやらないヨ!」
ちなみにマユリは自分に絶対の自信を持っている為、患者の希望よりも自分の我侭を押し付ける、実によくない癖がある。
「は・・はい。」
「では、今日決める必要はないから、説明を聞いてじっくり考えてからまた来るといいヨ。←この辺は最後の良心か?
他の美容整形に行ってもかまわない。
・・・ま、私以上の施術は出来ないと思うがネ。
ネム!この方にシリコンの説明を。グズグズするんじゃないヨ!このウスノロ!」
「・・はい、マユリ様。」
「じゃ、次の患者に入ってもらおうかネ。」
口も態度も性格も悪いが、腕だけは超一流のマユリを頼る患者は数多い。
「何だネ!?君は!
鼻筋を通したいだと?!ここは形成外科であって、美容整形外科では無いのだヨ!
君の鼻は外見的に問題はないヨ!
どう見ても骨折した形跡も無いじゃないかネ!
私は忙しいんだヨ!君の自己満足に付き合っている暇は無いヨ!!」
・・・どうやら、またマユリの怒号が挨拶代わりになっているようだ。
そんな憎まれマユリだが、手術を終え、患者が見違えるようになった部分に感動する姿を見る時だけは・・・
「ありがとうございます!!先生!!本当にありがとうございます!!
ああ・・!!夢見たい!!こんなに綺麗になるなんて!!」
「・・フン。当たり前だヨ。
なにせ・・・この私がやったのだからネ。」
少し照れているのか、少し言動も柔らかになると言う。
なんちゃって。