獣の誇り(阿散井恋次)

世の中には、何をやってもすんなりやっちまう奴がいる。

「天才」っていう類だ。

自分が何度も失敗して、それでも必死になってやろうとしている事を、そういう奴は当然のことみてえにやっちまう。
そして、出来ねえ奴を憐れみの入った目で見てるもんだ。

こんなことを考えてるんだろう。

「気の毒に。
だが、なんでこんなのが出来ねえのか分からねえ。」

たぶん、マジで分かんねえんだろうな。


そして出来ねえ奴・・つまりは俺だ。
俺はまたその出来ねえことを何度も失敗しながら、ようやく乗り越える。

けど、その壁は目標に達するまでのほんの1段階でしかねえ。
これから越えなきゃいけねえ壁は無限にある。


俺の目標。
「朽木白哉を超える」為には。


なんで、こんな目標を持ったかってのは、簡単だ。

ルキアに養子の話があったとき、俺はルキアの手を離した。
朽木家は大貴族だ。
その養女になれば、いい暮らしが出来るはずだ。
きっと幸せになるだろう。

その時俺はそう思っていた。
だが・・・養女になったルキアは少しも幸せそうに見えなかった。

いつも一人で下ばかり向いている。
つらそうな顔は見せねえ。ルキアはそういう奴だ。
みんな一人で抱え込んじまう。

俺と話すときは、心配させまいとカラ元気を振りかざして威勢のいいことを言う。

・・・そんなお前を見たくて手を離したんじゃねえ。
俺は・・・ルキアをこんな状態になる様に手を貸したも同然なんだ。


ルキアを養子にしたのは朽木白哉だ。
だったら、奴を超えて、堂々とルキアに言ってやろうじゃねえか。

「そっちが辛れえなら、かまいやしねえ。何時でもこっちに来いよ。」


あいつが何を選ぶかは分からねえ。
だが、選択肢を増やしてやりたかった。

そんなカッコいい事を考えていたが、実のところは朽木白哉とのあまりの力の差に、打ちのめされる毎日だった。
必死で鍛錬しても、文字どうり血反吐を吐きながらやっても、あの人との差が縮まった気がしねえ。

そんな日がずっと続いていた。
正直キツイものがある。


「雑草魂」

・・・なんか、現世ではこんな言葉がもてはやされてたらしいじゃねえか。
踏まれても、踏まれても、しぶとく耐えて生き残る・・・その根性だっけか?

は・・・そんなに大したことなのか?

踏まれねえ方がいいに決まってる。
踏まれて育つよりも、踏まれねえで育つほうが早く育つに決まってんだろ?


だけど、踏まれようが、なんだろうが、譲れねえからやれるんだよ。
一度根を下ろした以上、花咲かせて、実を生らせなきゃ何にもならねえだろ?
そのために、やってんだからよ。


けどよ。
本当の自分の身になる事っていうのは、踏まれた状況で掴む何かだと俺は思う。
俺は一護に負けた。
だが、その後初めて斬魄刀の具象化に成功した。

それがきっかけで、俺は卍解に到達してる。

いざという時、本当に頼れるのはスンナリ出来た技じゃねえと俺は思う。
そんな時、頼りになるのは、何千回、何万回も失敗して漸く掴む技だったり、術だったりするもんだ。


本当の力っていうのは、苦労しねえと掴めねえと俺は思う。
もちろん、あの人みたいな天才は別かもしれねえけどよ。
だけど、俺はそうじゃねえ。

藍染隊長の謀反で、尸魂界の状況は最悪ながらも、ルキアの方はずいぶん良くなったようだ。
最初ほど、窮屈でなくなって来ているみてえだし。
何より、あの人がルキアのことを大事に思っているっていう事が分かっただけでも、安心したぜ。


だけど、俺は目標は変えねえ。
今回で大分近づいたはずだ。
まだずいぶん先だけどよ。
でもなんか見えてきた気がするんだ。

・・・あの人の後姿が。

また・・・これからもその差を縮めるために、俺は必死になってやっていくんだろう。
泥まみれになって、血反吐吐きながら。

ほんのちょっとを縮めるために、血のにじむような努力をする。

・・・カッコ悪いか?

ま、そうかもな。パッと出来たほうがカッコいいかもな。


でも俺はこれでいい。
これしか俺は出来ねえ。

茨に覆われてようが、先があるんだぜ?

だからこの道を行くんだ。
茨の道だろうが、なんだろうが関係ねえ。
泥臭く・・・傷だらけになりながら。

カッコ悪くたっていいんだよ。
・・・何かを掴んで、少しずつ強くなって。


・・・けど、ぜってえあの人を超えてやる。


獣にだって誇りがあるもんだ。


・・・・これが俺の誇りなんだよ。




なんちゃって。

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