嫌悪すべきもの(涅マユリ
・・・私はある信念があってネ。
信念と言ってもただの当たり前のつまらないものだがネ。
”素晴らしくあれ、だが、決して完璧である莫れ”
凡人は皆、完璧などというものに憧れるものだろう?
欠けるものの何一つ無いもの。
フン、実にくだらないネ。
そんなものに意味など何もない。何もだヨ。
世の中において、完璧などというものは存在しない。
何かに優れれば、何かが劣るものだ。
例え劣るものがなくとも、他が優れて突出しているのならば、実際は劣るものとして評される。
我々科学者は、その欠点を少しでも無くすべく才能と知恵をその身を削って埋めようとする者たちだ。
だが、たとえ目的の欠点を亡くしたところで、我々の仕事は終わらない。次の欠点がすぐに出来るからだ。そして、また新たな欠点を埋め、そしてそのまた後で出来る欠点をまた補うべく努力する。
永遠に終わらないその繰り返しに、苦しみ、そしてそれさえ自らの喜びと出来る者だけが、生き残れる。
・・果てのない苦しみと喜び。
達成した喜びを得た次の瞬間には次の苦しみを求める。待ち望む。そして苦しみに慟哭しつつも、その表情は喜びに打ち震える。
・・・それが、研究者という者ではないのかネ?
完璧であるということは、それ以上研究する意味がないということだ。
・・これは我々研究者にとって死刑宣告に他ならない。
それ以上超えるものがありえないということなのだからネ。
科学とは欠点があってこそ、発展する。
欠点無くして技術の向上などありはしない。
欠点あってこその科学者だ。
完璧を望む科学者など、自らを否定する者に他ならないのだヨ。
だからネ。私は”完璧”などというモノが大嫌いでネ。
それどころか、嫌悪しているといいてもいいだろう。
・・フン、少し昔の話をしようじゃないか。
”アレ”の存在を知った時はネ。嫌悪どころか恐怖すらしたものだヨ。
分からないからさ。何せ我々の間では”アレ”は存在するはずのないものだからネ。
・・・何がだって?やれやれ、そんなことも分からないのかネ?
崩玉だヨ。あの忌々しいモノ。浦原喜助が創った、実に危険なシロモノだヨ、全く持ってネ。
崩玉の持つ特殊性は享受してやって良い。だが、私が科学者として享受できないモノがある。
破壊できないということだヨ。
創った本人である浦原が破壊できなかったというのは私も知っていた。
改めて、山本総隊長から本当に崩玉を破壊できないかどうか調べてくれと、依頼があってネ。実は私も破壊する方法を研究してみたんだヨ。
だが・・出来ない。未だにネ。
私のいかなる知恵も、そして才能も通用しない崩玉という存在。
欠点らしきところが無いのだヨ。どこにもネ。
硬度も組成式も、穴を空けられる隙がまったくと言って無い。
認めたくはないが、現存する物質の中で、完璧に最も近い存在。
私の介入する余地のない存在。
崩玉は、尸魂界に絶望をもたらすものだというが、それは私にとっても絶望をもたらす存在でしか無いのだヨ。
全く・・浦原もくだらないものを作ったものだ。
誰にもわからないように、隠そうとした気持ちは同情するがネ。
私の目的は崩玉を取り戻すことだヨ。
そして、研究する。
『完璧などというものは存在しない』
それを崩玉においても言えることを実証するためにネ。
そして、それが実証されたとき・・新たな可能性が生まれるのだヨ。
そう・・また新たな苦しみと喜びの可能性がネ。
・・・ああ・・想像するだけでとろけそうじゃないか。
科学者に終わりなどないのだヨ。
終わりなき苦しみ。
それが真の快楽というものではないのかネ?
なんちゃって。