孤独からの距離(石田雨竜)

僕は今まで仲間と言えるモノを持った事がない。
友人と呼べるものすらない。

勿論学校に通う以上、話す程度の学生は居る。
僕はそれを友人とは言わない。「クラスメイト」と呼んでいた。
ただたまたまクラスが同じになったというだけの関係。

学校生活において必要な関係が築けていればそれでいい。

・・それが僕の考えだった。

一般的に言えば、それを孤独と呼ぶのかもしれないが、僕には特殊な事情がある。
その為、孤独と呼ばれようとも別に不便は感じなかった。

何故なら・・僕は滅却師なのだから。

死神と反目し、滅ぼされたはずの人間の種族。
その末裔がこの僕だ。
僕は「奴ら」の目に留まることのないよう、身をひそめる必要がある。
そして、滅却師ゆえの特殊能力をクラスメートにも悟られることのないよう、気を配る必要があった。

油断をして、普通の人が見えないものを見えていることが知れると、後後面倒だからね。

だから、滅却師としても学生としても他とは一線を画す必要があった。
周りには心を許せる人なんていない。僕が唯一心を許せて話せた師匠はもう、この世にはいない。

孤独・・孤独・・孤独。
高い探知能力を持っていても、周りに心を許せる霊圧はどこにもない。
暗く・・冷たく・・・静寂。
それが孤独の空間だ。

その中にいるのが普通だと最近まで思っていた。

・・そう・・つい最近までだ。

我ながら少し拙速だったと反省することがあるけど、黒崎に関わることで僕の周囲は一変した。

立て続けの虚との戦い。
そして、死神との戦い。

あれほど憎んでいた死神の黒崎、そして特別な能力を持つ井上さんと茶渡君と尺魂界での死闘をくぐり抜け、僕は初めて仲間というものがどういうものなのかを知った。

僕たちはそれぞれ離れたところで戦っていた。
井上さんとは途中までは同じだったけどね。

僕は目の前の敵に集中していたつもりだ。
だけど・・僕は常に感じていた。

井上さんの・・茶渡くんの・・・黒崎の霊圧を。
言っておくけど、別に戦闘中に探査してたわけじゃないよ?
ただ・・・感じるんだ。
離れているにのに・・・ハッキリとね。

不思議な気持ちだった。

離れているのに・・その霊圧はまるで近くにあるかのようにリアリティを持っている。

確かな存在感・・そしてそれはまるで体温のように暖かい。


死闘をなんとかくぐり抜けた尺魂界からの帰り道。
黒崎は僕に「何かあったらまた頼む」と言った。
まるでそれが当然と言わんばかりにね。

・・冗談じゃない。

・・・滅却師である僕と死神である黒崎が当然のように戦うなんて。


きっぱり僕は拒絶した。
だけど、その僕を見る、3人の眼は変わらなかった。
・・・温かで静かな目。
「仕方がないなあ。」と言わんばかりに。


僕はそんな3人にそっけなく帰途についた。

・・・その時の気持ちを、僕は未だに上手く表現できない。
どこか恥ずかしくて、どこかこそばくて・・・・温かい何か・・・。
そんな、感情が僕の中に生まれていた。


一人暮らしのアパート。
閑散とした何時もの部屋。
物はあまり置いてない上に、整理整頓を欠かさない僕の部屋は、住んでいるという気配があまりないそうだ。

ただ、しばらく帰っていなかったから、やるべきことは山ほどある。
明日からちゃんと生活を軌道に乗せないと。
新学期も直ぐに始まるしね。

たまった家事を片端から片付けながらも、僕はこれからの取るべき行動を考える。
僕は滅却師としての能力を失っている。
だが、虚との戦いが無くなるわけじゃない。

頭の中で虚との戦闘方法を試行錯誤させながら、ふと彼らの事をまた思い出した。
・・・一緒に生きて帰ってこれて、よかった・・・。
滅却師の能力を失ったにもかかわらず、達成感があるのは目的を果たせたからだろう。
それも、誰ひとり欠けること無く。

今・・どうしてるのかな・・。
彼らの霊圧は探るべくもない。
感じるからだ。
大分離れているはずなのに、丸で手を伸ばせば届くかのように、はっきりと感じるからね。

ああ・・・皆元気だ。黒崎は元気すぎぐらいだけど。
相変わらず、霊圧を制御するのは下手みたいだ。
君のその出鱈目な霊圧おかげで空座町には虚が集まってくるんだぞ?まったく迷惑な話だね。

『また何かあったら、よろしく頼むぜ!』

・・・・・・。
離れている筈なのに感じる、霊圧がもつ体温。
また心の中を何かくすぐったいものを感じる。

くそ・・・っ。


僕はそれを押さえつけるかのように、心臓のあたりに手をあてた。




・・・僕は孤独の中に居るのが当然だと思っていた。
だが・・今の僕は孤独とはもう言えないのか・・?


離れているにもかかわらず、まるですぐそこにあるかのように感じる霊圧。


初めて孤独からの距離を感じた瞬間だった。






なんちゃって。

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