子供の特権(日番谷、浮竹、京楽)

浮竹は、日番谷が好きだ。

子供にもかかわらず自分と同じ地位に就いたわけだから、普通であれば敬遠するものだが、逆に可愛くて仕方が無いらしい。
日番谷が隊長に就任して、真っ先に彼に声をかけたのが浮竹だった。
以来、顔を見るたびに何かにつけて、必ず声をかける。
食べ物を持っている場合は、必ず分け与えようとする。
もう少し正確に言うと、無理やり押し付けようとする。
たとえ、自分が饅頭一つしか持っていなくても、それを半分に割って、食えと言う男だった。

日番谷は、浮竹が嫌いだ。

自分が子供だという自覚はあるが、同じ隊長に就いた以上、対等に扱うべきが筋だと思うのだが、浮竹にとってはまるで関係が無いらしい。
子供は甘いものが好きだと固く信じているらしいが、実は自分は嫌いだ。
最初こそ、仕方なく受け取ったものの、会うたび菓子を押し付けられてはたまったものではない。
ある日、たまりかねて甘いものが苦手だと言ったところ、今度は甘くない食べ物を押し付けてくるようになった。
迷惑な人物だが、あれでも一応先輩だ。
なるべく、話さぬよう避けて通る。
外見は子供かもしれないが、中身は大人の日番谷だった。

避けて通っていても、あたってしまう事もある。
おまけに、この日は浮竹の親友、京楽も一緒という最悪の日だった。
「日番谷!!ちょうど良かった!いいものがあるんだ。すごいぞ〜〜。本当の現世の水牛から作ったモッツアレラだ!お前にもやろうと思ってな。ほら!」

見ると、なにやら袋に入った液体に満たされた白くて丸い物体が見える。
「いや・・・いい。」
別に、悪気があって言っている訳ではない。本当に困るのだ。
一人で、どうこうする代物ではない。

「おや〜〜?日番谷君、チーズは体にいいんだよ〜?酒にも合うし。成長期にはカルシウム、いっぱい取らなきゃ、大きくならないよ〜?」
「そうだぞ?何でも良く食べることは、健康の基本だ。隊長の任務は過酷だからな。しっかり体を作らないと。」
「浮竹のやつ、君のためにわざわざ取り寄せたらしいよ〜?それを、いらないっていうのは、ちょっと大人気ないんじゃないの〜?」

「子供だと思ってるくせに、大人気ないなんて言うんじゃねえ、京楽。それに、こういうのは困るって言ったよな?浮竹。ボケるには、まだ早ええだろうが。」
「おんや〜?こりゃ〜おじさん一本取られちゃったかな〜?」
「・・・とりあえず、これは受け取ることにする。だが、俺は犬じゃねえ。顔見るたびに、食いもん押し付けるのは止めてくれ。いいな?浮竹」

そういうと、浮竹から包みを受け取ると、後も見ずに去っていった。

「やれやれ。嫌われちゃったみたいだなあ。」
「お前さんも、好きだねえ。そんなに子供好きとは知らなかったな。」
「年の離れた弟を思い出してな?俺と名前も似てるもんだから、なんだかほっとけなくて。」
「だが相手は、最年少記録をおっ立てて隊長になってるんだ。子供扱いされるのはイヤなんじゃないの?」

「お前・・今の日番谷くらいの頃どうしてた?」
「遊び歩いてたね。近所の瑠璃子ちゃんのお尻を追っかけてたくらいかなあ。年上の美人でさ〜〜。」
「俺も、遊んでた。」
「それで?お前さんの長男らしく面倒見がいいところがくすぐられるわけ?」
「俺は、いろんな大人に囲まれて守られていたころだ。京楽、お前もだろ?」
「まあ、ねえ。」
「それが、あいつはあの年で逆に大人を守る立場にいるわけだ。」
「隊長さんだからねえ。」
「俺には、お前という頼れるやつがいる。だが、あいつにはそれもいない。一人で全部背負っているだろ?」
「子供だからさ。一人で全部できると思っている。誰かに頼ろうなんて考えたこともないんじゃないの?ボクたちと対等になろうというので精一杯なのさ。」

「・・そんなところが、どうもほっとけなくてな。嫌われているとは分かってても、構いたくなってしまうんだ。」
「・・・ま、いいんじゃないの?あの子がもう少し大人になれば、分かってくれるさ。」
「もう少し仲良くなれたらいいんだが。」
「ボクは今のままでもいいけどね?彼のイヤそうな顔が、またかわいいじゃない。」
「そんなことをあいつが聞いたら、余計嫌われそうだな・・・。」
「大人にからかわれながらも、必ず気にかけてくれる。
それが子供の特権さ。」


浮竹は嫌いだ。
俺が普段忘れている、ガキだということを思い出させる。
病人ならば病人らしく、自分のことだけ考えていればいいのに。

隊長に就いた以上は、ガキもオヤジもねえと思っているし、そう実績を上げているつもりだ。
浮竹が言いたいことは分かっている。
もっと自分を頼ってほしい、こう言いたいんだろう。

だがそれは出来ねえ。

ガキじゃ、あいつは護れねえから。

悪いが、餌付けされて飼いならされるわけにはいかねえんだ。

・・だけど、あいつの人柄は嫌いじゃない。
あいつの好意は、心の底から出ている。
嘘がねえ。そして、人間性そのものは尊敬に値するといってもいいだろう。
包容力があるっていうんだろうか。

・・・・やっぱり、浮竹は嫌いだ。

俺を、ガキだって言うんなら、理由が特にはっきりしなくても嫌いといってもいいはずだ。

それも、ガキの特権だろ?

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