狛村家の食卓(狛村左陣)
・・ここは副隊長以上の階級の者のみが利用できる食堂・・。
そこに一人の巨体が現れた。
「ひい〜〜〜!!」
新入りのオバちゃんが悲鳴を上げる。
悲鳴を上げられたのは・・・我等がワンワン隊長、狛村左陣だ。
失礼ヨねえ〜〜、あんなにラブリ〜vなのにさ〜〜。
「驚いているところをすまんが・・・焼き魚定食をくれぬか?」
狛村は、自分の外見に驚かれることは既に慣れた。
・・とはいえ、見かけによらず繊細なところもあるため、今日もちょっぴり傷ついている。
態度には出さないけどね?
「は・・・は・・・はい〜〜!!」
必死でうなずき猛スピードで用意するオバちゃん。
いや・・狛村はただ定食を頼んだだけで、「早くしないと、お前を取って食う。」だとか、「やっぱり人肉のほうが旨そうだ。」なんてことは言ってないんだけど、オバちゃんにとって見れば、そう言われているように思っているらしい。
手が震えて、味噌汁をこぼしながら、よそおうオバちゃん。
「ご飯は、どんぶりてんこ盛りで良いですか?!!」
「いや・・普通でいい。普通の茶碗でくれ。」
「は・・ハイ〜〜〜!!」
オバちゃんが手渡す定食セットが乗った盆・・・。
狛村が持てば、菓子皿を持っているに等しい大きさだ。
そして、もっとも壁際の隅っこの席が狛村の指定席だ。
狛村は隅っこが大好きだった。
体がでかいため、そんなことをしても目立ってしまうのだが、何故か隅っこにいると心が和むようである。
椅子2個を失礼して、何時ものように腰掛けると、テーブルの上には1人前の焼き魚定食が並んでいる。
今日は赤魚の粕漬けのようだ。あとは切り干し大根の煮付け。青梗菜の煮浸し。豆腐。ワカメの味噌汁に香の物。
そして、いつものように普通盛りのご飯。
以上が今日の狛村の昼飯である。
巨体の割には、その量は少なすぎるのではとの感がある。
狛村は別にダイエットをしているわけではない。
生まれた時から、普通の量しか食べていないのだ。
理由は簡単だ。
大きくなるのがイヤだったから。
狼の外見はどうしようもないものだ。
それならせめて、目立たぬように、体は小さくありたい。
狛村が早い時期からそう思ったとしても無理はあるまい。
しかし、現実は違った。
幾ら狛村が、節制しても体は大きくなってった。
どう考えてもこの栄養でそんなに大きくはならぬはずだが・・、と自ら疑問に思うほど大きくなった。
まるで、食べたものが原子力発電しているかのような栄養効率のよさで狛村は大きくなっていった。
ウランを原料とする原子力発電に対し、食べ物を原料とする狛村体内発電機は、環境に有害な排出物を出さないというところが最大の特徴だ。
う〜〜ん。エコロジー。
未だに、食べる量は人一人分だ。
霊圧を消費するために、たくさん食べる隊長格に比べ、狛村の量の少なさは突出している。
小食の狼。
そう、陰口を叩くものもいる。
おもむろに、狛村は懐からマイお箸を取り出した。
手が大きいので、普通の箸だと持ちにくいのだ。
だから、狛村は食べに行く時はマイお箸を持っていく。
特別なものではない。
ただの菜ばしだ。
注)菜ばしとは、料理を作る時にお母さんが使っている大きなお箸のことです。
「いただきます。」
今日も行儀よく、お膳に礼をしてから、改めて箸を持ち直した。
当然、握り箸だ。
そして今日も、グーで箸を持ちながら、赤魚に箸を突き刺した。
握り箸なので、物を挟んだり切ったりするのが苦手なのだ。
・・・今日も残さずいただきます。
なんちゃって。