狛村左陣の誕生日
ここは、七番隊隊舎・・。
今日八月二十三日は年に一度、隊をあげての焼き肉大会が繰り広げられる日である。
焼き肉大会と聞いて、炭火を起こし金網の上で仲良く焼肉を焼くと思われた諸君も多いだろう。
だが、ここは七番隊だ。
忠義に生きる漢たちの隊である。
その漢たちの焼き肉がそのへんの焼き肉と同じであっていいはずがないのである。
くるりん・・くるりん・・・。
漢たちの肉は回る。といって、回転寿司のように回るわけではない。
回しながら焼くのが、七番隊の流儀なのである。
隊の中庭では、<肉>が昨夜から火にかけられて回っている。
炭になりそうなものだが、肉が巨大すぎて火を通すのに時間がかかるためだ。
何せ・・・ウシ一頭まるまる焼いているのだから・・・。
無論、腹は割いて内臓を取り出して、皮も剥いである。
しかしながら、成牛一頭がバンザイの恰好で焼かれながらくるくる回っているのは異様としか言いようがない。
味付けは射場の担当だ。
「ほな、隊長!不肖、この射場鉄左衛門が味付けさせて貰います!」
「うむ。頼んだぞ、射場。」
すると、射場、傍らにあった塩の入った袋に手をつっこみ、そのまま塩をわしづかみにする。
「おんどりゃぁぁぁ〜〜!!」
そして、回るウシに投げつけた。
塩加減も何もない。豪快としか言えんような味付け・・。
これこそが漢の味付けじゃけえ・・・。←なんか違うんじゃないのか?
塩を振られた肉から肉汁が滴り、火にあぶられて煙となり肉を覆う。
程よい燻製状態となったころ、漢の焼き肉大会が開始となる。
「隊長!お誕生日おめでとうございます!
ささ!入刀したってください!」
七番隊はくどいようだが、漢の隊じゃ。
ケーキや菓子なんぞは女子供の喰うモンじゃけえ。
漢の喰うモンや無い。
やっぱ漢いうたら・・・肉じゃ!
・・と思っているかどうかは分からないが、このように七番隊では牛一頭を潰して丸焼きにするのが、狛村左陣の誕生日の祝い方なのである。
無論、最初に手をつけるのは、狛村だ。その次に射場、三席と言った風に最初は席順に手をつけていくのが、忠義に篤い七番隊での作法である。
ちなみに、この場合での入刀は斬魄刀が使われる。
「ふむ!」
とウシの左後ろ足を切断し、手にする本日の主役狛村。
巨大なはずのウシの後ろ脚も巨漢の狛村が持てば、普通に見えるから不思議だ。
狛村に骨付き肉はよく似合う。
普段、寡黙で実直な狛村だが、肉を食う時は本来の野生が迸るが如く豪快だ。
そらそうだろう。狼がウシ喰ってるんだから(笑)。
がうがうと肉に食らいつく狛村の様子を見て隊員は思うのだ。
「これぞ!これぞ漢の肉の食い方だ!!」←単にオオカミの喰い方なんじゃ・・。
けど、同じことは他の者には出来ない。
そもそも歯の構造が違うから。同じことをすれば歯がやられてしまうのだ。
最初の入刀を済ましてしまえば、後は基本的に無礼講だ。
各自好きなだけ、肉を食べる。
宴が終り、解散となった頃・。
狛村はこの時の骨を持ち帰る。記念に持ち帰るわけではない。
「わん!!」
「おお、五郎。良い子にしておったようだな。
ほら、土産だ。ははは。そうか、嬉しいか。」
・・・隊の飼い犬にやるためだ。
・・・ウシの骨が貰える日。八月二十三日は犬の五郎にとっても、嬉しい日となるのである。
なんちゃって。