狛村、床屋に行く(狛村左陣)

夏は暑い。
当然だろう。

暑いから夏なのだ。

しかし、暑さがことさら堪える者がいる。

狼の顔をした隊長だ。

・・・名を狛村左陣という。


全身を狼の毛で覆われているとはいえ、一応は人だ。
毛が生えてるからって、裸でいるわけにはいけない。

当然、着物を着る。

毛むじゃらで、それだけでも暑いというのに、その上着物まで・・・。

それでも暑いなどと言った事は無い。
だって、「待て」は得意だからね!(笑)

それでも、暑いのは変わらない。

なんとか涼しく過ごせぬものか。

そう考えるのも仕方あるまい。
そんな時、部下の話し合う声が聞こえた。

「お?髪切ったのか?さっぱりしたな。」
「ああ。涼しくなってよかったぜ。」


狛村は、床屋に言った事が無い。
冬毛と夏毛に生え変わることくらいで、それ以上は毛は伸びないからだ。

「床屋か・・・。」
当然、今は夏毛だ。

しかし、毛を刈ることで涼しくなるかもしれない。
今は、鉄笠を被ることもないから、更に涼しくなるはずだ。

思い立った狛村は、ある床屋に入っていった。

「ひい〜〜〜〜!」
狛村を見た床屋のオヤジは腰を抜かさんほどに驚いた。
しかし、隊長の羽織を見てお偉いさんだと分かるや、なんとか平常心を取り戻したようだ。

「き、今日はまたいかがしましょう。」
「髪を切ってほしいのだ。少し短くしたい。」

髪?!!イヤ・・、アンタ髪なんてないじゃん!!毛はあるけど!!

心の中で叫ぶオヤジ!!ウン君のツッコミは当然だ。

「髪をですか・・・。ど、どのようにお刈り・・・じゃないお切りしましょうか!」
「そうだな・・・五分刈りで頼む。」

どっかりと床屋のいすに腰掛けた狛村。
オヤジは狛村の頭に手が届かないため、脚立を使用だ。

「ご、五分刈りでございますね?!!」
よかったな、オヤジ!!ここで毛染めだの、パーマだのと言われようなものなら、タイヘンなことになったぞ?!!

さっそくはさみを持つオヤジ。
しかし直ぐに、困ってしまった。


どこからどこまでが、髪の部分になるか、分からないのだ・・・。

ていうか、頭の部分だけ切ったとしても、顔の部分まで毛はあるから、もっそいおかしくなってしまう。
頭の毛だけ刈られた犬がいたら皆笑うもんね。
やっぱり顔の毛も同じ様に切らなきゃ。

でも、顔の毛を切るのってどう言えばいいのか?!!

「あの・・お客様。」
「なんだ。」
「お顔の方も、同じようにお切りしてよろしいでしょうか。」
「うむ。よろしく頼む。」

人間とは違って、動物の毛は密集している。
最初からバリカンだ。

耳にオヤジの手が触れるたびに、狛村の耳がパタパタ動く。
流石に耳の毛はいじらない方がいいだろう。

顔の部分の毛は、特に大変だった。
毛が入り組んでいてバリカンが通らない。
仕方が無いので、ハサミを使うオヤジ。

そして、開始から1時間後。。。

漸く狛村の五分刈りが完成した。

毛が刈られて、少し細くなったイメージの狛村。
毛でずいぶんかさ上げされていた様だ。

「うむ。ずいぶん涼しくなった。礼を言うぞ、主人。」
「それはよろしゅうございました。」


上機嫌で帰っていく狛村。


・・・毛刈りされた狛村。
いつもよりもさらに注目されているようだ。

「狛村隊長。」
狛村が出会ったのは檜佐木修兵。早速狛村の毛刈りに気づいたようだ。
「えっと・・・・(どういったらいいのか分からない)。イメチェンですか?」
とりあえず、当たり障りの無いところで切り出す修兵。
流石に毛刈りに気づきませんでした、と言う訳にはいかないだろう。

「いや、暑いのでな。切ってみたのだが。大分違うな。涼しくなった。」
「そうですか。・・・さっぱりしましたね。←相当言葉を選ぶ修兵。」
「そうか?」


狛村は上機嫌のようだ。


狛村の思いつきは大成功したかに・・・思えた。


しかし、狛村は重大な事を見落としていた。


その夜。風呂に入るときだ。
狛村はあることに気がついた。

頭部の毛は確かに毛を刈って短くなっている。
しかし、首から下はそのまんまなのだ。
頭の部分だけ毛が短い犬・・・・。


相当に格好が悪い。それに体も毛刈りをすれば、もっと涼しくなるに違いない。

自分で何とかしようとしても、狛村は不器用だ。首の辺りの毛など刈れない。


次の日。
バリカンを買う狛村の姿が、ある店で見受けられた。


バリカンを使えば、自分でもある程度毛を刈れる。


しかし、またもや狛村は壁に当たる。


・・・背中の毛を・・・どう刈ればいいのだ・・?
流石に背中に手は届かない。

しかし、背中だけボウボウというのも、もっとヘンだ。

どうしたものか・・・。
悩む狛村。


そして・・・



二日後・・・。

またもや、床屋の戸を開ける狛村がいた。



そして、2時間後、すっきりした顔で出てくることとなる。


狛村御用達になってしまった床屋・・・。
バリカンを3種類に増やしたようだ。

そして、狛村が来る日は、完全予約制となったらしい。


すっきり夏を過ごせるようになった狛村。


・・・今度は三分刈りに挑戦するらしい。



なんちゃって。

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