降雪全てを覆う(藍染惣右介)

「ギン。三番隊の隊長に空きが出来る。君がなるといい。」

ただの連絡事項のように藍染が言う。

「そりゃ、また急ですなあ。でもボクに決まったわけでは、まだありませんやろ?」

ギンも全く驚いていない。

「君以上の適任者はいない。・・君も分かっているはずだよ?」
「おや、またお褒め頂いて。体のええ厄介払いか思いましたわ。」
「君ほどのものを僕の下に何時までも留めては置けないからね。これもいい機会だと思うよ?」

「・・・心配やあらしまへんの?」
「何をだい?」
「ボクが裏切ることを。同じ隊長になって裏切るかもしれまへんやろ?」

「そのことか。僕が君にとって面白い事をする存在である限り、君は裏切らないと思っている。
もちろんこれは僕の予測であり、君がそうであるとは限らないが。
だが、君が僕の予測と違ったところで、それは仕方が無いだろうね。」

「えらい余裕かましますなあ。流石は護廷十三隊1番の人格者と言われてるだけありますな。」
「別に僕は自分が広めたわけではないし、自分がそうであるとは思っていないよ?
・・・・・君が一番よく知っているはずだが。」
「ホンマですなあ。悪いお人やさかい。」
「君に言われると、本望だね。
・さて。無理にとは言わないが、三番隊隊長の件は受けるかい?」

「そうですなあ。ほな、隊長とタメ語を話してもええんやったら受けますわ。」
「もちろんかまわないよ。ではその旨手続きしよう。」
「おおきに。」

「ではもう今日は上がりなさい。僕は目を通したい書類がある。
・・・冷えてきたね。雪が降るかもしれない。気をつけて帰りたまえ。」
「ほな、先に失礼しますわ。」
執務室を出たギン。
「ホンマ、雪降ってきましたわ。これは積もりそうやなあ。」
そのまま私室に帰っていった。

藍染は書類に目を通し、ギンの隊長の推薦状を書く。
小一時間も経っただろうか。

ふと周りの音がなくなっていることに気付く。
雪が積もってきている証拠だ。
そのまま窓の障子を開ける。

雪は外の緑を覆い隠そうとしていた。

藍染は雪が好きだ。
全てのものを白く染め抜いてしまう。
真の色を隠す白。
まるで彼の持つ斬魄刀の能力のようだった。
真実を覆い隠してしまう。

暫し雪を眺める。
吐く息は白い。

・・ギンは頭のいい男だ。
私に利用価値があると思っている間は、まず裏切らない。
崩玉を手にし、自由にその力を利用できるようにならない限り、ギンは裏切らないだろう。
そう私が考えていることも、彼は知っているはずだ。
もちろん、裏切った場合、私が何らかの対策を講じているだろう事も分かっている。
・・・頭のいい男は好きだ。
だから、彼を副官にした。

その彼を隊長にさせるのは、より護廷十三隊の権力組織に食い込むためだ。
地位の高い手駒は多いほどいい。

ギンは『悪』というものに強いこだわりがある。
そして、何かに囚われることを極端に嫌う。
そこが、自分の弱点になる事を知っているからだ。

雪は降り続いている。

眼鏡をゆっくり外す。
眼鏡はだてだ。
本当は必要はない。
ただ、気持ちの切り替えのために着用していた。

人格者、藍染・・か。
眼鏡をかけた私の言動は虚構ではない。
私の本当の部分でもある。
人間というものは善の部分と悪の部分の両方を持ち合わせている。
要はその幅の何処に自分を置くかの問題だ。

・・・雪は好きだ。
全てを白に染めつくす。

・・・気が長くなったものだ。
以前ならもっと効率のよい方法を取っただろう。
だが、急ぐばかりが道ではない。
今は、目的地までの道のりをゆるりと楽しむのも悪くはない。

・・・・この雪が降り積もる様を見るように。

なんちゃって。

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