黒の帝王の胎動(藍染とギン)
ここは瀞霊廷某所。
誰も気にも留めぬところに、そこはあった。
そこでは普段ならまずありえない二人が合い間見える。
五番隊隊長、藍染惣右介。そして三番隊隊長の市丸ギン。
温厚で人望があり、常に優しい笑みを絶やさぬ藍染に対し、何を考えているかわからない、人を食ったような笑みをこれまた絶やさぬギン。
挑発的な態度を取りがちなギンに対して、思慮深い人格者として対応する藍染と、この二人は表立って対立はせぬものの不仲である。
これは彼らを知るものの共通認識だった。
一時期、ギンは藍染の下で副隊長を務めたこともあったが、副隊長時代はともかく、隊長になった彼はかっての上司である藍染に無礼ともいえる態度さえ見せていた。
そのふたりが何故このような所にいるのであろうか。
「崩玉の在り処、分かりはりました?隊長。」
「まだだ。後一歩といったところなんだが。浦原もずいぶん手の込んだ隠し方をしてくれたものだ。・・・だが、そう時間はかかるまい。もう直ぐ見つかるだろう。」
「そやったら、そろそろ行動に移せそうやなあ。」
「そうだね。その前に我々の周りを固めるだけ固めておいた方がいいだろう。例の副官の件だが・・・。あの時の女の子・・雛森君と言ったかな?彼女は僕の下につけることにする。君の下には、吉良君だったか・・彼をつけるといい。阿散井君は・・・危険だ。いざと言う時に気づかれる恐れがある。彼は何故か鼻が利いてね。戌吊出身だからかな。」
「ずるいなあ、隊長は。かわいい女の子取ってまうなんて。」
「別に他意はないよ。ただ・・彼女を押さえておくことは、日番谷君を押さえる事にもなる。いざと言う時使えるよう、彼女をよく『教育』しておかなければいけないからね。」
「おお〜、こわ!悪いオトナがどんな『教育』するんか、考えただけでも怖いわ〜。」
「君は吉良君のほうを、頼むよ。使えるよう、しっかり『躾け』ておくことだ。」
「任せといてください。ボク、『躾け』るんは得意やさかい。」
「僕の事を怖いと言った君の台詞、そっくり君に返すとしようか。次にここで会うときは、崩玉を見つけた時だ。いいね?」
「了解。そやけど、隊長。東仙さんのこと、ほんまに大丈夫なんですか?信用しても。狛村さんとも仲ええみたいやし。」
「狛村は駄目だ。彼は嘘がつけないからね。それに、仲がいいと言っても、狛村が目の見えない東仙に対して依存しているだけだ。問題は無い。」
「世界に光と平和を、とかいうんが、東仙さんの目標ですっけ?」
「愚かな男だ。・・・闇にいる者が作れるものは闇の世界だけだ。どうあがいても、自分に無いものを創れはしない。これは真理だ。」
「でも、隊長の刀の力が効かん唯一人のお人やさかい、抑えておかんとあきまへんし。」
「その通りだ。働いてもらわねばな。この世界全てを破壊し、そしてまた創りかえる為に。」
「お供しますよ、藍染隊長。あなたはボクの上に立ってもいい唯一人のお人やさかい。」
「見せてやる。この世界が変わる様を。・・・そして私の手で創りかえられる様を。」
・・・・この数ヵ月後、瀞霊廷に激震が走る。